研究概要 |
本研究は,分子気体力学によってさまざまな流れに起こる現象を,流れの分岐・安定性を中心に解明することが目的である. 平成18年度は,回転する同軸二重円筒間の二成分混合気体の流れについて研究を行った.混合気体は,円筒を構成する物質の蒸気と,それとは別種の気体(非凝縮性気体とよぶ)から成る.蒸気は円筒の壁面上で蒸発または凝縮を起こすが,非凝縮性気体は蒸発・凝縮いずれも起こさない.この問題を,まず軸方向・軸周り共に一様という空間1次元問題の仮定のもとに,とくに連続体極限(希薄から常圧に近づく極限)に着目して分子気体力学により調べた. 解析手法としては漸近解析を用いた.より詳しくは,連続体極限からのずれを代表する量(クヌーセン数)を微小パラメータとして,基礎方程式であるボルツマン方程式の漸近展開を行い,混合気体の連続体極限での振舞を記述する流体力学的方程式系(ナビエ・ストークス型の方程式系)を導出した.その結果,連続体極限では蒸発・凝縮は止まるにもかかわらず,無限小の蒸発・凝縮が,その極限の流れ場へ大きな影響を及ぼすことが示された(幽霊効果と呼ばれる現象の一例).さらに,その流体力学的方程式系は,解の分岐を示すことも明らかになった.また,これらの結果は直接シミュレーション・モンテカルロ(DSMC)法と呼ばれる手法によって数値解析を行うことによっても裏付けられた. これまでは,軸方向・軸周り共に一様である場合を考えたが,次に,軸方向の一様性をはずして,動径方向および軸方向の2次元問題として同じ問題を考え,DSMC法による数値解析を行った.その結果,上の1次元解析で得られた解のいくつかは不安定で,2次元的な流れ場へと移行することが観測されている.2次元問題は,かなりの計算時間がかかり,いまのところ結果は少数であるので,系統的なデータ収集を行うことが本研究の今後の課題である.
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