研究概要 |
網膜や大脳視覚野を電気刺激することにより,光覚が得られていることが知られている.近年,神経生理学と集積回路技術の発展にともない,これらの融合技術として,人工視覚再生の研究が活発に成されており,神経再生の基礎データが揃いつつある.本研究は,機能不全に陥った視細胞の機能を,CMOSイメージセンサを応用したデバイスにより置き換え,視覚再生を行う人工視覚再生デバイスの開発を目的としている.人工視覚再生デバイスを実現するには,デバイスの眼内完全埋植と多点刺激による光覚再生が必要となる. まず,眼内完全埋植には低消費電力であることが要求されるが,デバイスの消費電力の大半は刺激パルス生成が占めている.そこで,カエル遊離網膜を用いたin vitro実験による刺激効率評価と消費電力評価から刺激パルスパラメータの最適化を行った.これらの評価から短パルス幅の単パルス刺激が刺激効率が高く,平均消費電力を低減できることを明らかにした. 次に,多点刺激による光覚再生には,多点刺激時の網膜応答を明らかにする必要がある.また,精細な光覚再生の実現には,網膜神経節細胞の電気刺激応答範囲を刺激電極ピッチ以下に制限しなければならない.そこで,カエル遊離網膜の2点刺激実験を行い,多点刺激時の網膜神経節細胞の応答評価を行った.実験結果から多点刺激においても電気刺激応答は,1点刺激と同様に注入電荷量に依存することを明らかにした.そして,複数電極を用いて局所的に注入電荷量を中和することで電気刺激応答範囲を制御し,より精細な光覚再生を行う新しい多点刺激手法を提案した.
|