研究概要 |
本研究の目的は,中国甘粛省および内蒙古自治区にわたる黒河流域の下流域において,地下水涵養機構と過去30年の流域水収支を定量的に解明することである.本年度は,観測データに基づく数値モデルの構築と,水収支解析を中心に行った.水収支の変化に伴って,自然植生の分布域と活性度がどのように変化したのかについても解析した. 流域水収支の変遷を明らかにするために必要な数値モデル_□とくに「植物による蒸散の抑制効果」のモデル,衛星データをインプットのひとつとする蒸発散モデル,地下水モデル_□を構築した.これらは,現地観測_□地表面における放射・熱収支,植物生理,地下水の動態_□をもとに構築した.従来の方法との違いは,資源利用体系もふくめて時間的・空間的に明らかにできることである. これらを利用して,2001年と2004年における日々の蒸発散量の空間分布と流域水収支を解析した.その結果,主に二つの知見を得た.流域全体で見ると,河川流入量は蒸発散量よりも少なく,降水量は蒸発散量よりもきわめて少なかった.それらの差し引きである貯留量変化はいずれの年も負,つまり地下水(貯留量)が減少する傾向であった.蒸発散量について土地利用毎に見ると,灌漑地における蒸発散量は自然値生域における蒸発散量の約1割であった.ところが,単位面積あたりで見ると,灌概地における蒸発散量は自然植生域における蒸発散量の2倍以上であった. 土地利用の変遷を解析した結果,中国改革開放政策の一端として行われた生産責任制の実施にともなって,植生分布域が減少してきたことが示唆された.一方,植生の活性度の変化を地下水貯留量変化と関連させて解析した結果,流域末端部における変化が顕著であることがわかった.1990年から2001年までに地下水位が2m程度低下し,それが植生の活性度の低下を引き起こしたことを示した.
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