研究概要 |
植物にとって、地球の自転に伴う昼夜変化に同調することは多大な利益をもたらす。この同調は遺伝的に組み込まれた生物時計によって成立していると考えられてきたが、実際に近年の精力的な研究によって、いくつかの遺伝子がこの生物時計の制御に深く関わることが分かってきた。 私はこれらの遺伝子の中でもユニークな発現様式を持つシロイヌナズナの遺伝子群PRRs(PSEUDO RESPONSE REGULATORs)について解析を行ってきた。本年度はPRRsの中でも朝方に発現ピークを迎える遺伝子PRR9、PRR7、PRR5の多重欠損株を作成し、形質を詳細に調べた。これら変異体は多面的な形質を示したが、とりわけ概日リズム関連の形質が、強く観察された。prr9/prr7は概日リズムが長周期(30時間)に、逆にprr7/prr5は短周期(19時間)になっていた。さらにprr9/prr7/prr5は、無周期になっており、これら遺伝子間の複雑な相互作用が、概日リズムの維持に必須であると示唆された(Nakamichi et al., Plant Cell Physiol.46, 609-619, Nakamichi et al., Plant Cell Physiol., 46,686-698, Mizuno and Nakamichi, Plant Cell Physiol., 46, 677-685)。植物は、生物時計と外環境の光周期を参照して、都合の良い季節に花芽形成を誘導する(光周性花成)。prr9/prr7/prr5は、概日リズムが異常であるため、超遅咲きの形質を示した(Nakamichi et al., Plant Cell Physiol., 46, 686-698)。PRRsや生物時計は植物界に普遍的に見られるため、シロイヌナズナでの研究結果は、農業上に有用な知識や方法論となると期待される。
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