研究概要 |
神経細胞が伸ばす長い突起の中には,さまざまな分子の局在が認められる.例えば,ショウジョウバエの腹部神経節やマウスの脊髄交連神経において,軸索ガイダンスに関わる膜タンパク質であるRobo受容体は,軸索の遠位端側の領域にのみ分布し,軸索の細胞体に近い領域にはほとんど検出されない.しかし,このような軸索内での分子の局在パターンがどのように形成・維持されているのかは不明であった. 従来,このような局在パターンの形成は,軸索と他の細胞との接触などによる外的な因子に依存していると考えられてきた.また,流動性のある細胞膜上で分子の局在が維持されていることに関しては,膜タンパク質が細胞骨格につなぎとめられることによって固定されているのではないかと推測されていた. これに対し,本研究では,ショウジョウバエ胚の低密度初代培養を用い,分子の軸索内局在が細胞自律的に形成され得る現象であることを見出した.また,FRAP法を用いて軸索膜上の分子の動きを観察することにより,軸索膜上で分子は流動性があるものの,分子の局在する領域の境界部分には膜分子の拡散を妨げる障壁が存在することを明らかにした. 一見均質な神経軸索は,実は拡散障壁によって区画化されており,この区画が分子の軸索内局在の基盤となっているのではないだろうか.今後の課題は,区画化の分子的なメカニズムを明らかにし,軸索内の区画化が神経系の発生においてどのような役割を果たしているかを解析することである.
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