本研究は、イタリア語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語などの複数の言語的拠点を有すアントニオ・タブッキの文学作品を、互いに異なる立場から生産される、複数の言語に寄り添った表現可能性の観点から明らかにすることを目的としている。また、文字によらない言語(絵画言語、映画言語)と文字言語間の複数言語性を考察することで、(文学作品を中心とした)芸術作品において複数言語性が作用する様態とその効果を検証することも、研究の対象に含む。 本研究に欠かせない資料のうち、主に新聞に発表されたタブッキの物語テクストおよび政治・文化時評記事を収集するため、2005年8月31日より2005年9月29日まで、イタリアにおいて文献収集活動を行った。その結果、昨年度の文献調査の成果に加えて、従来のタブッキ研究において通常コーパスに加われていない一次資料である作品をさらにいくつか収集することが出来た。この調査・収集活動で得た資料をもとに、タブッキの虚構作品コーパスの改訂、および作家の膨大な量に及ぶ新聞寄稿記事のリスト化を行った。後に単行本として刊行される作品の一部が雑誌などの媒体で発表されている場合には、可能な限りテクストのヴァリアントの収集に努め、実際に完成した作品と完成以前の作品を比較検討する材料とした。収集した資料を利用し、生成研究の方法をも取り入れながら、博士論文「夢幻的な論理-アントニオ・タブッキの物語宇宙-」を執筆し、3月初旬、東京外国語大学に提出した。
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