研究概要 |
昨年度に引き続き、雌性配偶体形成におけるサイトカイニンの役割を調べるために、全てのサイトカイニン受容体遺伝子(CRE1,AHK2,AHK3)が破壊され、サイトカイニンに対する感受性がまったく失われたシロイヌナズナの突然変異体を用いて、サイトカイニンが配偶体形成に関与するかを調べた。変異体の胚珠では、8割で雌性配偶体の構造が確認されず、約1割は様々な段階で発生が止まっており、残りの約1割でのみ成熟した配偶体が形成されていた。このことから、サイトカイニン受容体は雌性配偶体形成に重要ではあるが、必須ではないことが明らかになった。この原因としては、雌性配偶体形成時にはサイトカイニン受容体のホモログであるCKI1が発現しているために、CKI1はサイトカイニンを受容するわけではないがリン酸リレーを介してサイトカイニン受容体の機能を相補している可能性も高いと考えられた。 また同時に、雄性配偶体である花粉の観察を行ったところ、2つの精核と1つの栄養核を持つ花粉は形成されていた。しかし、花粉管の伸長を調べたら野生型に比べて非常に低い割合でしか発芽せず、発芽してもとても短かった。つまり変異体の花粉は成熟していないことが分かった。このことから、サイトカイニン受容体は雄性配偶体の成熟に必要であることが示唆された。 さらに野生型の花粉を突然変異体の雌ずいにかけたときに、ほとんど花粉管が伸びなかったことから、サイトカイニンは花粉管を伸長させるという雌ずいの機能にも重要である事が分かった。 これまで生殖生長期におけるサイトカイニンの役割はほとんど分かっていなかったが、以上の事から、サイトカイニンは雌性配偶体形成、雄性配偶体の成熟、雌ずいの機能に重要であることが明らかとなった。
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