研究概要 |
視蓋にはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)産生ニューロンの投射が存在し,近年,ニジマス視蓋脳室周囲層ニューロンの細胞体にGnRH受容体のmRNAが局在することも示されている.そこでGnRHによる視神経線維と視蓋脳室周囲層ニューロンの情報伝達における神経修飾機構について解析を行った.まず,視神経線維を電気刺激した際に生じるシナプス後電流をパッチクランプ法により視蓋脳室周囲層ニューロンから記録した.グルタミン酸受容体アンタゴニストにより抑制されるこの電流の振幅はGnRHを投与すると増大し,GnRH受容体のアンタゴニストの共投与によって抑制されることがわかった.すなわち,GnRHが脳内の神経情報伝達に対して修飾的に関与することが始めて示された.また,パッチ電極にトレーサーを入れ,電流の記録と同時に形態の解析も行った.その結果,脳室周囲層ニューロンには視蓋内に終末する軸索を持つタイプと,視蓋内に終末が認められないタイプの2種類が存在することがわかった.前者は同じ種類のニューロンも含めて近隣のニューロンの樹状突起にシナプス接続している可能性があり,後者は視蓋の外へ投射している可能性が考えられた. そこで,視覚情報入力を受ける視蓋脳室周囲層ニューロンのうち視蓋の外へ情報伝達するニューロンを同定し,その伝達先を調べるため,視蓋からの投射領域にトレーサーを注入し,そこに投射する脳室周囲層ニューロンを染色した.その結果,視蓋前域,浅視蓋前域核大細胞部,半円堤,峡核の少なくとも4部位に投射する視蓋脳室周囲層ニューロンが存在することがわかった.また,浅視蓋前域核大細胞部からは内側縦束核にある前運動ニューロンへの投射が認められたことから,脳室周囲層ニューロンで処理された情報が,浅視蓋前域核大細胞部を介して行動に影響することが示唆された.
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