研究概要 |
N_2O(亜酸化窒素)は,地球温暖化およびオゾン層の消長にも関与している物質であり,近年大気中で増加傾向にある.本研究は,沿岸域におけるN_2Oの大気への発生量を見積もるとともに,発生過程の解明をも目的としている.調査地として海跡湖である茨城県の涸沼(面積9.35km^2)を選択した.本年度はまず,涸沼のN_2O生成量を知るために湖水および底泥間隙水中のN_2O現存量の季節変化を調査した. 涸沼の湖水中のN_2O濃度は,夏期に最も高く,大気平衡時の溶存N_2O濃度を大きく上回っており,超過飽和の状態にあった。一年を通して,下流(海側)におけるN_2O濃度より上流(淡水河川付近)のN_2O濃度の方が高い値を示していた.上流の窒素イオン種(NO_<3^->,NO_<2^->,NH_<4^+>)の濃度は下流の濃度よりも高かったことから,N_2Oの生成量は基質の供給量に支配されるものと考えられた. 底泥間隙水中のN_2O濃度は,夏期から秋期にかけて高かった.また,N_2O濃度はいつも0〜2.5cmの層で最も高い値を示し,圧倒的に湖水中のN_2O濃度より高かった.この結果から,涸沼におけるN_2Oの活発な生成サイトは主に底泥表層であると考えられた. 涸沼は,浅い汽水湖であり,湖水は強風などにより比較的簡単に攪拌される.そのため,湖底の溶存酸素が枯渇してしまうことはほとんど無く,夏期においても低酸素状態を維持している.低酸素状態は微生物によるN_2O生成を促進する(Senga et al.2002).したがって,涸沼の底層および湖水-底泥境界面は,N_2O生成さらに大気への発生に重要な場であると推察される.
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