研究概要 |
本年度はまず前年度に得られた単層カーボンナノチューブ(以下,SWNT)の光学異方性に関する知見をまとめ,学術雑誌への投稿・発表を行った.具体的には,垂直配向単層カーボンナノチューブ膜(以下,VA-SWNT膜)のラマン散乱及び光吸収の異方性を見出し,特に後者においては,の紫外域(5.2eV付近)に存在するSWNT軸に直交方向の偏光により励起される光吸収を,グラファイトとの関連性及び過去の電子エネルギー損失分光の報告結果を基にしπプラズモン励起と帰着した. 続いて,この帰着に対する確証実験として電気化学ポテンシャル及び周囲媒体の誘電率を変化させ,これらがVA-SWNT膜の光吸収スペクトルに及ぼす影響を計測した.これらの実験結果より,当該紫外吸収ピークがπプラズモンとした時に予測される挙動と一致した変化を示すことが確認された.以上の研究から得られた一連の知見はSWNTの光学応用を考える上で重要なものと考えられる. さらに,上記研究とは別に,VA-SWNT試料を温水中に挿入するとVA-SWNT膜がスムーズに基板から剥離される事を見出し,剥離された膜が垂直配向を保ったまま任意の基板表面に転写可能なことを示した.具体的には,本手法により,透明プラスチック膜やCPU等の電子回路上といった,耐熱性・化学安定性を有しない固体表面にもVA-SWNT膜の付着が可能となった.本研究で見出した剥離・再付着法は,VA-SWNT膜の応用可能範囲を大きく拡大するものと考えられる. 以上まとめるに,本研究においては研究課題「単層カーボンナノチューブの基板上直接生成と光学・熱デバイスへの応用」を実施し,その遂行を通じてSWNTの光学及び熱応用の可能性が示されたと考えられる.
|