研究概要 |
近年、銅酸化物高温超伝導体酸化物、CeやUを含む重い電子系化合物、そしてTMTSF系に代表される強相関電子系において、従来のs波超伝導体とは対称性が異なる異方的超伝導体が数多く発見され超伝導研究は新しい局面を迎えている。これらの異方的超伝導体の多くは量子臨界点近傍に位置し、量子臨界性と超伝導発現機構の関連が超伝導研究の大きな課題の一つとなっている。量子臨界点の近傍では、常伝導状態において通常の金属が示すようなフェルミ流体とは異なる非フェルミ流体的振る舞いを示す。したがって、量子臨界点近傍の異常な物性を調べることは超伝導の発現機構を理解するうえで非常に重要である。 そのようななか、最近重い電子系超伝導体CeMIn_5(M=Co,Rh, Ir)が発見された。これらの物質は量子臨界点近傍に位置し、圧力をパラメータとして量子臨界性を制御できるため、量子臨界性と超伝導の発現機構の解明に最も適した物質である。そこで我々は、CeMIn_5の常伝導状態において、電気抵抗やホール効果、磁気抵抗といった電子輸送現象を高圧下で系統的に調べた。 その結果、CeMIn_5の常伝導状態の電気抵抗率、ホール係数、磁気抵抗において非フェルミ流体的振る舞いがみられることがわかった。とくにホール係数は量子臨界点の近傍で発散的に増加すること、磁気抵抗においてはコーラー則が破綻し修正されたコーラー則が成立することを発見した。これらの異常な輸送現象の振る舞いは銅酸化物高温超伝導体でも同様に観測されることが知られている。また、CeMIn_5の輸送現象の異常な振る舞いが、量子臨界点近傍における強いスピン揺らぎに起因するものであるという観点からよく説明できることを明らかにした。これらの研究成果は、これまで詳細には理解されていなかった強相関電子系、とくに銅酸化物高温超伝導体の特異な輸送現象に新たな知見を与え、さらには量子臨界性と超伝導発現機構の解明するための糸口となるものである。
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