研究概要 |
金属材料の疲労強度に及ぼす繰返し速度の影響を明らかにするために,アルミニウム合金A6061,低炭素鋼S10CおよびNi-Cr-Mo鋼SMCN439を用いて,超音波疲労試験(繰返し速度20kHz)および通常の引張圧縮疲労試験(10-80Hz)を行った.さらに疲労試験と並行して動的応力解析を行い,超音波疲労試験での欠陥の応力集中を明らかにした. 動的解析の結果,材料内部の球状欠陥の直径が1mm以下であれば,超音波疲労試験と通常の疲労試験の応力集中係数はほぼ等しい.また,超音波疲労試験片にき裂が発生しても,超音波疲労試験の繰返し速度が変化しない程度のき裂長さであれば,超音波疲労試験と通常の疲労試験での応力拡大係数はほぼ等しい.これらの結果から,弾性力学的には超音波疲労試験と通常の疲労試験の応力分布はほぼ等しいといえる.しかしながら,実際のき裂先端では塑性変形が起こる.超音波疲労試験での塑性変形は塑性応力波の伝ぱによって起こり,塑性域寸法は繰返し速度と加工硬化率で決まる.そのため,通常の疲労試験での塑性域寸法がき裂長さに対してある程度の大きさをもつ場合,疲労強度に及ぼす繰返し速度の影響があらわれる. 1.A6061:超長寿命領域での疲労寿命は超音波疲労試験のほうが通常の疲労試験よりも数十倍長い.これは,超音波疲労試験の主き裂まわりに微小き裂が発生し,き裂進展が抑制されるためである.本研究で使用したA6061の粒径は2-3mmであり,数百μmのき裂と比べて非常に大きい.そのため,き裂進展に及ぼす結晶方位の影響が大きく,主き裂まわりに微小き裂が発生しやすい. 2.S10C:超音波疲労試験での疲労限度は通常の疲労試験よりも約25%程度高い.変形応力に及ぼすひずみ速度の影響を明らかにするため,Hopkinson棒法による衝撃圧縮試験および引張試験を行った.その結果,応力-ひずみ線図での降伏点の水平部の長さは高ひずみ速度ほど長いことが明らかとなった.このことから,超音波疲労試験での塑性応力波速度は0に極めて近い値となるため,塑性域の拡大が困難となり,超音波疲労試験でのき裂進展速度が低下する. 3.SNCM439:SNCM439のようなマルテンサイト組織を持つ材料では,塑性域がき裂長さに対して十分小さく,疲労強度に及ぼす繰返し速度の影響はほとんどみられない.
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