脊髄損傷に対して現在のところ有効性のある治療法は開発されていない。我々は、損傷後急性期に脊髄で強発現するIL-6に注目して研究を行っている。本研究課題の結果、我々はIL-6レセプター抗体を脊髄損傷急性期に投与することにより、過度の炎症反応による二次的損傷並びに内在性神経幹細胞からのグリア瘢痕形成を抑制し、不全麻痺損傷において有意な機能改善が得られることを証明した。このメカニズムをより詳細に解明するために我々は損傷脊髄において発現する軸索伸展阻害因子であるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの発現を解析した。その結果、IL-6レセプター抗体投与群においては損傷後2週の時点でコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの発現が半減していることを明らかにした。さらに、新規のバイオイメージングシステムを用いて動物を生かしたままプロモーター活性をリアルタイムに定量並びにイメージングする方法を開発した。このシステムを用いて、脊髄損傷後にIL-6シグナルの下流標的分子であるGFAPプロモーター活性が損傷後24時間をピークとして上昇することを明らかにした。現在IL-6レセプター抗体投与によりこの活性がどの程度容量依存性に抑制されるかを検討中である。またIL-6シグナルの下流分子であるSTAT3のconditional knockoutマウスを用いて損傷後に形成されるreactive astrocyteの役割を検討している。その結果、IL-6シグナルは急性期には炎症反応を惹起し損傷を悪化させるが亜急性期にはreactive astrocyteのmigrationを促進し、損傷治癒に関わっている可能性が示唆された。
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