研究概要 |
海洋における生物の多様性はいかに創出され,維持されているのか.海洋環境の悪化が懸念される現在,これらの現象を理解することは生物多様性の重要性を論議する上で有用な情報を提供する.我々はカイアシ類に注目し,その進化過程を推定することにより動物プランクトンの多様性がいかに創出されているのか理解を深めることを目的とした. Oithona属カイアシ類は,その多くが体長0.3〜2mmの小型のカイアシ類である.その分布は単一の属でありながらも非常に広く,地理的には熱帯〜寒帯,生態的には汽水・内湾〜外洋,また鉛直的には表層〜中・深層にいたる海洋のさまざまな環境に出現する.本研究ではこのようにさまざまな環境に出現する本属カイアシ類の系統関係を明らかにし,本属各種の分布域と比較することによりその進化・多様化過程を推察した. 本属カイアシ類の各種から,ミトコンドリアDNAのCOI領域と核DNAのITS領域をPCRにより増幅し,サブクローニングの後塩基配列を決定し,Bayes法を用いその系統関係を推定した. 解析の結果,得られた系統関係の内部枝の多くは高い事後確率により支持され,信頼性の高い樹形が得られた.得られた系統樹と各種の分布域を比較すると,外洋に分布の中心を持つ種の多くは派生的なクレードに含まれ,本属カイアシ類が外洋に進出した後に多様化したことが推察された.
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