研究課題/領域番号 |
05041013
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
斎藤 晨二 名古屋市立大学, 教養部, 教授 (70094373)
斉藤 晨二 (1995) 名古屋市立大学, 教養部, 教授
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研究分担者 |
池田 透 北海道大学, 文学部, 助手 (50202891)
佐々木 史郎 国立民族学博物館, 助教授 (70178648)
井上 紘一 北海道大学, スラブ研究センター, 教授 (10091414)
デ・グラーフ トゥジェル オランダ, グローニンゲン大学・言語学部, 助教授
熊谷 君子 東京ロシア語学院, 講師
ガーラック スコット・ク アラスカ大学, 人類学部, 助教授
小谷 凱宣 名古屋大学, 教養部, 教授 (40111091)
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研究期間 (年度) |
1993 – 1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
19,000千円 (直接経費: 19,000千円)
1995年度: 6,000千円 (直接経費: 6,000千円)
1994年度: 8,000千円 (直接経費: 8,000千円)
1993年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
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キーワード | 少数民族 / サハ共和国 / イルク-ツク州 / 西シベリア / トナカイ飼育 / 伝統文化 / 市場経済 / 環境破壊 / ヤク-ト馬 / 環境問題 / 生業としての狩猟 / 平地ツンドラの遊牧 / 少数民族の混住 / トナカイ飼育技術 / 越冬準備 / サハ(ヤク-ト)人 / エベン人 / エベンキ人 / 馬牧畜 / ツンドラ |
研究概要 |
シベリアの永久凍土地帯において、北方少数民族の伝統的生業の現地調査を通じて、北半球の寒極地域における人類の寒地適応文化を明らかにしつつ、ソ連邦崩壊後の北方少数民族の生き残りの可能性を探った。本研究のために協力を得たのは主としてサハ共和国科学アカデミー人文科学研究所ならびにイルク-ツク大学である。 夏期に比較的広域にわたる観察を行ないながら、地域を限定してのトナカイ飼育民について厳寒期を除く四季の生業活動に関する集中的な調査を実施した。このために選定したのが、サハ共和国エヴェノ・ブイタンタイスキー地区のエヴェン人とイルク-ツク州カタンガ地区のエヴェンキ人である。 平成5年度の夏期の広域調査では上記両地域の他、中央ヤク-チアのヤク-ト人の馬飼育に関連した伝統文化の調査を試みた。しかし、東シベリアにおいて少数民族とは言いがたいこの民族は、帝政ロシア・ソ連時代を通じてロシア化をともなう近代化がかなり浸透して生活様式も多様化しており、伝統文化の調査を短期間に実施することは困難であることが分かった。 平成6年度の広域調査では北東シベリアのコリマ川下流地方のエヴァン人のトナカイ飼育民を調査した。低地ツンドラにおける年間の長距離移動の遊牧に狩猟と漁労をともなう生業形態、および飼育トナカイと野生トナカイとの競合関係など文献によって断片的に知られていた事象を、かなりよく残していることが明らかになり、今後集中的な調査が期待される。 平成7年度には西シベリアのオビ川下流域からギダン半島にかけての地域の調査を行なった。地下資源開発による環境破壊により伝統的生業の崩壊が問題視されているが、他方、ギダン半島には、ネネツ人の伝統的な生業と文化が生き残っていることが判明し、これも今後、その実態を明らかにすべき課題である。 平成5〜7年度の集中的調査地域のうち、上記のエヴェノ・ブイタンタイスキー地区においては、夏期のヴェルホヤンスキー山脈の山岳ツンドラと冬期の山麓の森林地帯の間を往復する多頭トナカイ飼育が行なわれている。これに従事するのは大部分のエヴェン人であり、かつての民族共同体がソ連時代にほぼそのまま集団化の形態をとったため、ソ連体制の崩壊後も、かなりかつての社会環境を保持している。生業としてのトナカイ飼育に従事する者も若年から高年齢者までを含み、彼らの生業活動は当面健在であるかにみえる。しかし、歴史的に彼らはヤク-ト文化の強い影響下におかれて、言語的にはほぼ完全にヤク-ト語化しており、トナカイ飼育を営むが故にエヴェン人であるという側面がある。また、ソ連崩壊後の市場経済への対応では多大の困難に直面しており、生産性の低さ、商品としてのトナカイの毛布・肉の販路の確保が困難なこと、かつて有力な生業であった野生獣毛皮狩猟も価格低落によって成り立たなくなり、狩猟は食料自給の一手段に逆戻りしているなどの問題が表面化している。北方少数民族の生き残りをかけた市場経済への移行策がサハ共和国政府の主導の下にとられつつある。 集中調査を実施したいま一方のイルク-ツク州カタンガ地区ではタイガ帯においてトナカイ飼育と狩猟の組み合わせから成る生業活動がエヴェンキ人によって続けられていることが明らかになり、その実態を詳しく記録することに努めた。森林地帯における本来の意味での自給自足ではないが、さまざまな日常の生活の習慣・技術の中に彼らの独自の民族文化が色濃く存続している。ここでもソ連時代を生き延びたエヴェンキ人の伝統が近代的な産業開発による森林破壊や市場経済化にいかに対応するかに大きな課題がある。 ソ連邦崩壊後、以上のシベリア諸民族の間には民族文化の復興運動が盛んになっているが、ソ連体制下における民族固有の文化の喪失を否定できないものの、国家の経済統制による一定の生活水準の維持が可能であった。苛酷な自然環境と地理的に隔絶した地域に居住する民族の真の意味での発展がいかに計られるかは、なお詳しい調査を要する。
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