研究分担者 |
中村 徹 筑波大学, 農林学系, 講師 (60015881)
池田 裕 筑波大学, 歴史人類学系, 教授 (70151305)
岡田 保好 (岡田 保良) 国士舘大学, イラク古代文化研究所, 助教授 (70138171)
常木 晃 筑波大学, 歴史人類学系, 助教授 (70192648)
浅野 一郎 早稲田大学, 文化財調査室, 調査員
江上 波夫 古代オリエント博物館, 館長 (50053377)
ショウキ シャアス シリア国立アレッポ博物館, 主任研究員
足立 拓朗 古代オリエント博物館, 研究部, 嘱託研究員
三宅 裕 筑波大学, 歴史人類学系, 助手 (60261749)
和田 久彦 古代オリエント博物館, 研究部, 嘱託研究員
岩崎 卓也 東京家政学院大学, 文学部, 教授 (30015383)
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研究概要 |
1980年,「シリアにおける都市文明の成立」(研究代表者・江上波夫)を研究課題にテル・マストゥーマおよび周辺遺跡の調査が開始された。88年までに5回の現地調査が実施され,幅5mの北トレンチの完掘により下部約10mが青銅器時代前期IV,中部3mが青銅器時代中期,上部5mが鉄器時代II期に相当することが明らかとなった。紀元前2400年頃に始まるマストゥーマの町は,エブラ王国の繁栄と深くかかわっており,オリーブ生産がこの町の発展を支えていたことが窺えた。さらに鉄器時代の第I-2層では,北地区と中央区の平面発掘が進み,中央の広場を挟んで西街区と東街区に分かれ,これを取り囲むように環状に連なった建物が外郭区を構成していることが明らかとなっていた。93年から「シリアにおける都市文明の展開」(研究代表者・脇田重雄)により,鉄器時代の町の構造とその変遷の解明,さらに歴史的,自然的環境の復原を試みる総合研究を目的としたテル・マストゥーマの第II期調査が実施された。この3年間の調査研究によって得られた成果は以下に要約することができる。 1.考古学的調査 (1)テル・マストゥーマの南地区及び中央区では新たに23区画の発掘が行われ,第I層鉄器時代の発掘面積は第I期調査と合わせて4200m^2に広がった。これは鉄器時代の居住範囲の約半分近くに相当し,その中心部を含め南北におよそ120m,幅60mの範囲で町の構造が明らかとなった。鉄器時代第I-2層の町は道路で区画された5乃至6街区で成り立ち,町の出入口には南の外郭区の建物が途切れた幅約8mの通路が使われた。これより古い第I-3層では幅約2.5mの門が構築されていた。 (2)南斜面の15Gc区では鉄器時代の建物の一部と町の出入口へ向かう導入路が検出された。第I層の直下は青銅器時代前期の約4mの厚い堆積で,さらにこの下に新石器時代の文化層を確認し,マストゥーマに最初に住み着いたのは紀元前5千年頃にまで遡った。 (3)テル・マストゥーマの10km圏内に所在する24遺跡の調査を行い,遺跡分布図とテルの形状,規模,継続年代表を作成した。イドリブ地区での丘陵地帯への入植は青銅器時代に始まり,鉄器時代になって本格的な開発が行われたことが確認された。 2.建築学的調査 第I層では色,質,大きさに違いのある4種類の日乾煉瓦が建物の壁に組み合わせて使用されているのが観察された。また複室構成の建物が一般的であり,床の高さの違いに起因する貼合わせ壁の精査により,独立壁が建物の基本単位を数える有効な手段となった。 3.古文書学的調査 南隣のハマ王国に至る丘陵地帯内部の古文書学的踏査を行い,鉄器時代にはハマ王国の影響力が強かったことを窺わせる大型のテルを3基発見した。最終年度に出土した土器に記されたアラム文字の解読が試みられた。 4.植物学的調査 丘陵地帯の植生,土地利用の実態,さらにこの50年間の灌漑による果樹栽培の拡大が平原地帯にまで及んでいることが明らかとなった。早春と晩春では花や栽培植物の違いが確認された。 5.調査総括 膨大な数にのぼった出土土器をはじめ土製品,石製品,金属製品,骨製品を地区,層位,遺構で選定し統計処理を行った。現地での調査成果は各年度ごと概要報告書に取りまとめ,シリア考古学博物館総局をはじめとする関係諸機関に提出するとともに「古代オリエント博物館紀要」に収録した。
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