研究課題/領域番号 |
05041032
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 亜人 東京大学, 教養学部, 教授 (50012464)
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研究分担者 |
金 良柱 培材大学校, 文理科大学, 助教授
朴 柱彦 珍島五狼言論文化社(珍島文化院), 研究員
趙 慶萬 国立木浦大学校, 島嶼文化研究所, 助教授
本田 洋 東京大学, 教養学部, 助手 (50262093)
秀村 研二 明星大学, 日本文化学科, 専任講師 (60218724)
朝倉 敏夫 国立民族学博物館, 助教授 (40151021)
丸山 孝一 九州大学, 教育大学, 教授 (80037035)
KIM Yang-Ju Baeje University, College of Arts and Sciences, Associate Profess
PARK Ju-On Orang Ollon-Munhwasa, Director, Researcher
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研究期間 (年度) |
1993 – 1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
12,000千円 (直接経費: 12,000千円)
1995年度: 4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
1994年度: 4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
1993年度: 4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
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キーワード | 国家 / 周縁性 / 伝統 / 民俗文化 / 文化財 / 国際化 / 地方自治 / 観光開発 / ナショナリズム / アイデンティティー / 再活性化 / 開発 / 文化行政 / 離島社会 |
研究概要 |
各研究分担者は各自の分担地域での現地調査を実施すると同時に、ソウルおよび地方都市では行政関係を含む刊行資料の蒐集と、文化行政の関係者や研究者からも貴重な情報を得て、それら資料の整理と分析を行ってきた。 特に本研究が対象とした全羅南道と慶尚南道の島嶼地方と内陸山間部では、70年代以後の深刻な過疎化と高齢化、住生活を中心とする生活文化の変化、農業の停滞と大都市に転出した親族への依存が高まり、国家の中での周縁化が進むとともに民俗文化の衰退がみられたが、近年になって民俗文化の部分的な再認識と復活の動きが顕著である。民俗文化の核ともいうべき巫俗についても、「セマウル運動」とキリスト教の浸透を背景として迷信視され周縁文化に位置づけられたものが、近年はナショナルな文化財として保存・育成の対象となっている現状が明らかとなった。 巫系の遊芸人によるパンソリやタシレギなどを演目とした商品販売と結びついた伝統芸能興業の復活、南原群における村の「クッ儀礼」の祝祭化と文化財としての再評価、同じく南原市における妓生たちによる周縁的な性格の慰霊祭から地域の公式な祝祭に成長して今では全国に知られるようになった「春香祭」、珍島郡における「霊登祭」にみられる行政の手による郷土祝祭の育成と観光開発と結びつけた伝説の祭儀化、三別抄の乱にまつわる歴史の再解釈と慰霊祭儀のイヴェント化や蒙古来襲に因む長崎県鷹島町との交流などは、いずれも既存のナショナリズムの枠組とは別個の、国家の周縁部に独自なアイデンティティーを追求する動きとして注目される。このほかにも南原、珍島、都草島、巨文島など各地において、村人による洞祭の自発的な復活と、祖先に対する追慕事業と石碑建立などの「郷土の英雄」の再創造の事例が報告された。 文化財行政については、行政側の資料や文化財専門委員などの関係者からの情報と、地方の当事者や民間人からの情報を総合することによって、中央による無形文化財の指定、人間文化財と後継者・候補者の指定と助成の実態、指定文化財の国内・海外でのイヴェントへの出演、伝統の解釈と創造、後継者の育成、都会の学生たちとの交流、同郷者による歌舞団の結成などが取り上げられた。中央の文化行政は各地の文化財の保護育成に大きな役割を果たしてきたが、その一方ではこれに深く関与してきた専門委員(民俗学者)と一部の芸能伝承者とが特殊な人脈を形成することになり、これが民俗文化の健全な継承や発展にとって新たな障害となっていることも明らかとなり、地方自治化の趨勢のもとでの国家による伝統文化の保護行政は大きな転機にあることも明らかとなった。 このほかにも地方の伝統文化の動向については、文化院および地方の有志による民俗・郷土史・方言文学などの活動と出版物、「民俗食品」や「民俗酒」「郷土菓子」などにみられる伝統文化の洗練化・再創造・商品化の動き、歴史の再認識と伝統文化を重視した郡単位の文化芸術館、文化院、郷土博物館や道立博物館、各テーマ博物館、また近年特に強調されている「地方の国際化」についても、国際イヴェントの推進、過疎地における農村後継者の国際交流(鹿児島との「からいも交流」)、日本の離島における観光開発の視察・研修なども、国家の周縁性とナショナリズム、近年強調されている「地方の国際化」の実例としても注目された。 日本の離島における周縁性と再活性化の実態調査を担当した韓国側メンバーは、長崎県の外海町、五島の福江島、中通島、小値賀島、鷹島における地域文化活性化の運動から、一部は熊本の天草における有機農業や移動漁業に活路を求める漁民をも対象として、とりわけ過疎化と農業、離島の交通と福祉、民俗文化の現状と保存活動、地域の開発と活性化の取組みなど、聞き取り調査と資料蒐集とによって広範な問題の概況を掴むと同時に、日本側メンバーとの討論を通して日韓の離島社会におけるアイデンティティーのありかたについて比較研究の展望を得ることができた。
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