研究概要 |
1.本年度は,華南経済圏の中で,経済発展と農村の変容について,農山村である広東省梅州市梅県を現地調査地域として選定した。梅州市は,梅県他5県にまたがっている。また,梅県の中に梅州市と呼ばれている地域もあって,混乱しやすい。後者の梅州市をここでは,旧梅州市と呼び区別する。具体的な聞き取り調査の対象は,旧梅州市にある梅県政府農業委員会,梅県内の雁洋鎮,石扇鎮,程江鎮,城東鎮,水車鎮などであり,各レベルにおいてヒアリングおよびアンケート調査を実施した。この梅県は,珠江デルタの北部に位置し,近年郷鎮企業の展開が見られるものの,むしろ昨年度調査の対象地域であった深 市と比較して後発地域である。 2.現地調査からは以下のような成果が得られた。 (1)著しい経済発展を遂げている珠江デルタ地域への出稼ぎ労働力供給地域としての役割をはたしている。梅県では,現在,出稼ぎ者数は減少しているという。その理由は,(1)労働服務公司で出稼ぎ公募によって集め,深 市等にある企業へ斡旋しているから,闇の部分が減少したこと,(2)県内に郷鎮企業がたくさんできて,県内の就業の場が増加したことである。ところが,それは,昨年度調査した深 市における郷鎮企業では,梅県からの出稼ぎ労働力は,勤勉で質的にも高いので,積極的に雇用しているという実態と異なっている。梅県は伝統的な出稼ぎ地域である。制度を利用せずに個人間の情報のやりとりで,出稼ぎしている人が多いのが実態である。制度を利用しないのは,出稼ぎ者にとって,制度を利用すると(1)契約期限が2年と限られていること,(2)最初の月給の30-50%を手数料としてその服務公司に徴収されるからである。 (2)梅県は,都市部の外延的拡大が進展しつつある。とくに,旧梅州市内において,ビル,道路の工事がいたることろにみられる。しかし,その周辺の農山村地域は,立ち遅れている。農山村部では農業部門に依存した農業構造になっている。それでも近年,郷鎮企業に代表される非農業部門の展開によって,鎮経済が活性化している。主な郷鎮企業は,建築業,紡績業である。 (3)石灰等の地域資源に恵まれている鎮では,セメント関連の製造業を中心とした資源活用型の経済発展を進めている。石灰岩の多い山から石灰を採掘してセメントを作る。合板製造工場も比較的多い。セメントも,合板も主としてビル建設に利用されている。オートンバイ組立工場もある。しかし、オートバイの性能が良くないので,売れゆきは順調ではない。鎮経済の今後の発展にとって,物流の前提になる道路等のインフラ面の整備が緊急の課題である。そのため,幹線道路の改修が急テンポで行われている。 (4)農業部門は,市場経済化の中で、商品作物の生産に力点を置いている。とくに,ザボン,養豚,養魚の生産が盛んである。これらの収益性が高いので生産量が増加している。商品作物の農業は「三高農業」と呼ばれている。三高農業とは,以下の例が典型的なものである。果樹園に草を植える。その草は,亜熱帯地域の果樹園の土中の水分の蒸発を防ぐので果樹生産にとって好ましい。草が伸びると,それを刈り取り,豚の餌として与える。豚の糞は,池に流す。池で養殖している魚がその糞を食べる。魚の糞は,池に沈殿する。魚が大きくなったら,池の水を引き,底にある汚泥を取り,それを果樹園に施し肥料とするというものでる。投資する資金が不足しているので,このような無駄のない自然循環農法によって,農民の所得を増やすことを考え,実施しているという。農業は,気候の影響をうけるから,地域の気候に見合った農法の確立が重要である。三高農業は,この地域にあった大変優れた農法と思われる。ただ,稲作は,3期作であったが,現在,水稲-水稲-冬野菜等の2期・2毛作である。稲作は,牛による耕耘,手植え,足踏み脱穀機という動力による機械化以前の段階であって,まだ労働生産性が高まっていない。その生産は停滞的である。ザボンの生産量は,全国一である。その生産は,近年急増している。ザボンを生産している農家の中には、雇用労働を用いるなど農民層の分解もみられる。
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