研究課題/領域番号 |
05041071
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
桜井 隆 国立天文台, 太陽物理学研究系, 教授 (40114491)
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研究分担者 |
佐野 一成 国立天文台, 乗鞍コロナ観測所, 助手 (60226032)
熊谷 收可 国立天文台, 乗鞍コロナ観測所, 助手 (50161691)
一本 潔 国立天文台, 太陽物理学研究系, 助手 (70193456)
末松 芳法 国立天文台, 太陽物理学研究系, 助教授 (50171111)
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研究期間 (年度) |
1993 – 1994
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研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
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配分額 *注記 |
5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
1994年度: 3,500千円 (直接経費: 3,500千円)
1993年度: 1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
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キーワード | 太陽 / コロナ / 南米日食 / 皆既日食 / 太陽風 / 南米 / チリ |
研究概要 |
1994年11月3日に起こった皆既日食は、南米大陸のペル-、チリ、ボリビア、パラグアイ、ブラジル等の国々を50分足らずの時間で通過した。皆既日食は、普段地球大気の散乱光に埋もれて、見ることの出来ない太陽コロナを観測する上で、絶好のチャンスである。国立天文台からは4名のスタッフがチルのプレト町に出かけて観測を行った。 コロナは太陽の光を散乱することによって輝いている。よく知られているように太陽スペクトルには無数の吸収線が見られるが、コロナのスペクトルには吸収線が殆どなく連続的な分布を示す。これはコロナの温度が非常に高いため、電子の熱運動によってスペクトルが波長方向に馴らされてしまったためである。ところが太陽スペクトルの3900Åと4300Åあたりには、もともと強い吸収線がたくさん集まっており、これらの波長帯にはコロナの連続光スペクトルにも浅いへこみとしてその痕跡が残っている。そしてそのへこみ具合いはコロナの電子温度を反映し、波長のわずかなずれはコロナの運動を反映していると考えられる。我々の目的は連続光スペクトルの形から、コロナの温度と運動を調べることであり、太陽風のしくみを理解するための基礎的な情報を得ようというものである。 この観測を実現するために我々は2つの望遠鏡を用意した。1つは口径28cmのカセグレン望遠鏡に透過型回析格子からなる小型分光器を取り付けたもので、これによてスリット上のコロナのスペクトルを撮影する。スペクトルは512×512素子の冷却CCDカメラで撮影され、波長方向には3600-4700Å、空間方向には太陽直径の約1.3倍の範囲をカバーする。もう1つは口径18cmのカセグレン望遠鏡にフィルターレットとCCDカメラを取り付けたもので、これによって太陽直径の約4倍の視野でコロナの2次元像を撮影する。2つのフィルタータレットには、中心透過波長が3980,4100,4220,4310Åの4枚の干渉フィルターと、それぞれ120°ずつ方向を違えた3枚の偏光板が装着された。 観測機材を載せた船は8月中旬横浜港を出航した。我々はこれを10月7日に現地で受け取り設営を開始した。途中いくつかの予期していなかった機器のトラブルも発生したが、チリ大学の研究者達の協力も得て大事にはいたらず、予定どうりの準備を整えて日食を迎えることが出来た。 残念ながら皆既日食は早期より発生した薄雲の中での観測となった。光量が少なく空が一様でないことは観測にとってはありがたくないことであるが、とにかく予定どうりの観測を行った。すべての装置は順調に動作した。3分間の皆既時間に得られたデータは、撮像望遠鏡によるコロナの偏光画像が合計36枚、分光望遠鏡によるコロナのスペクトが計5枚である。スリットは月を含む太陽の南極域コロナホール、東のストリーマ-の低高度(0.1太陽半径)と光高度(1太陽半径)領域の計3つの場所にあてられた。また、日食の前後に、データ更正用の空と太陽のスペクトルを取得した。 得られたデータの解析は現在進行中である。全体的にも撮像観測の方はやはり多少光量不足であるが、東西に延びた3本のストリーマ-をきれいに促えている。スペクトルには、高温コロナの成分、ダストによる成分、輝線スペクトルによる成分が見事に描き出されている。これからコロナの温度や運動を求めるためには、装置の感度や波長特性を慎重に更正し、モデルとの詳しい比較を行わなければならない。現在までに、コロナの電子温度について以下のような結果が得られている。 ・東のストリーマ-の電子温度は約300万度であり、太陽から離れるにつれて増加する傾向がある。 ・電子温度はストリーマ-の外側で低くなる傾向を示す。 ・極域のコロナホールの下の方は明らかに低い電子温度(約200万度)を示すが、そこでは高さに伴うかなり急速な上昇がみられる。 ここで得られた電子温度は、これまで他の方法で得られたものよりもかなり高い値を示しており、コロナの加熱や太陽風のモデルに与えるインパクトが大きい。今後さらに比較検討する必要がある。また、コロナの運動に関する解析も進めていく予定である。
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