研究概要 |
1.調査地 インドネシアのジャワ島のボゴール(西部ジャワ州.多雨であるが弱い乾季がある),プルウォダディ(東部ジャワ州.明瞭に乾雨季が交代する少雨環境)と,スマトラ島のパダン周辺の4地点(スマトラ西部州.後述)に調査定点を設定し,植食性昆虫類の個体群の長期動態(とくに個体群サイズと死亡要因の季節変動)を調査した. 2.バナナセセリ (1)スマトラ西部州内において,パダン(海岸地帯,非常に多雨で,乾雨季の区別なし),スカラミ(海抜1000メートル,多湿),シチウン(内陸部,海抜200メートル,乾季がある),ランバタン(海抜500メートル,小雨,強い乾季あり)でも調査し,環境条件と本種の個体群動態の関係を調べた. (2)野外から採取した卵,幼虫,蛹を飼育して,一次寄生者には6科12種のハチ類(コマユバチ科,アシブトコバチ科,トビコバチ科,ヒメコバチ科,コガネコバチ科,ヒメバチ科)と4種のハエ類(ヤドリバエ科,ニクバエ科,ノミバエ科),二次寄生者には6種のハチ類(コマユバチ科,アシブトコバチ科,ヒメバチ科,ヒメコバチ科,カタビロコバチ科)を記録した. (3)パダンとシチウンでは,バナナセセリの個体数は,約50日間隔で規則的に増減し,1年に7-8世代を繰り返した.両地とも個体数の増加につれて世代の不連続性はより明瞭になった.パダンでは,個体数と雨量には相関はなかったが,シチウンでは,乾季に個体数が減少し,雨期に個体数が増加した. (4)両地とも,ハチ類による寄生率は,卵に40-60%,幼虫,蛹の50%以上に達し,主な死亡要因であったが,寄生率には季節変動が少なく,雨量やバナナセセリの密度との明瞭な関係も検出されなかった. 3.マダラテントウ類 (1)E.emarginataに近縁の1種 本種はツル性の雑草Mikania(キク科)を食草とする.1990年にボゴール植物園内の数カ所の食草群落を調査地点として,すでに4年間にわたりセンサスを行った.(調査地全体の)成虫の個体数は数匹から90匹まで大きく変動した.個体数変動と降雨量には,正の相関が見られた.1991年後半の干ばつ時には,個体数が減少し,雨期の再開につれては再び増加した.食草群落ごとの個体数変動が同調したので,降雨の影響の重要さが示唆される.寄生蜂は,卵の約25%,蛹の12%を殺したが,寄生率は個体群密度や降雨量の変動とは,明瞭な関係がなく,ほぼ一定であった. (2)E.vigintioctopunctata(ニジュウヤホシテントウ) ボゴール,プルウォダディ,スカラミでナス科半低木であるSolanum torvumを食草とする野外個体群を調査した.(1)ボゴールでは,雨期に個体数が増加し,乾季に減少した.(2)プルウォダディでは,5-6ヶ月間の乾季には食草場から姿を消した.卵の寄生率は約9%であった.(3)スカラミでは,1991年12月から約3年間のデータが蓄積されている.ここではやや大型のE.enneastictataと食草上で共存している.ニジュウヤホシテントウの成虫数は,3年間のうち1992年5-6月頃と,1993年4-6月頃の2度ピークを形成した.一方E.enneastictataの成虫個体数は,つねに低密度であった. 4.ジンガサハムシ類 ヒルガオ科のIpomoea carneaを食草とするAspidomorpha miliarisとA.sanctaecrucisの野外個体群を,ボゴールとプルウォダディで調査した.ボゴールでは,食草を植え付けたときには多く発生したが,その後時間経過とともに個体数は減少した.食草には葉が十分にあるにもかかわらず,ジンガサハムシの密度が低い原因は不明であるが,食草の化学成分の変化である可能性が高い.プルウォダディでは,乾季に個体数が減少し,雨期には回復した. 5.ボゴール植物園内において,ササラダニの1種を飼育し,食べるアリ(カドフシアリの1種)が,調査メンバーの伊藤文紀により発見された.このアリは巣のなかで家畜を飼うようにこのダニを世話し,ダニはアリの巣から隔離されると生存できぬことがわかった.
|