研究分担者 |
MILLS A.K. タスマニア大学, 植物部, 助教授
JAFFRE T. ニューカレドニアORSTOM(科学陵)植物部門, 主任
BEEVER R. ニュージーランドLR(国土保全研究所), 部長
BUCHANAN P.K ニュージーランドLR(国土保全研究所), 室長
鈴木 彰 千葉大学, 教育学部, 助教授 (50110797)
瀬戸口 浩彰 東京都立大学, 理学部, 助手 (70206647)
樋口 正信 国立科学博物館, 植物研究部, 研究官 (10189772)
北山 太樹 国立科学博物館, 植物研究部, 研究官 (20270407)
土居 祥みち (土居 祥兌) 国立科学博物館, 植物研究部, 室長 (10000134)
小山 博滋 国立科学博物館, 植物研究部, 部長 (90000132)
相良 直彦 京都大学, 大学院・人間環境学研究科, 教授
YOKOYAMA Kazumasa Faculty of Education, Shiga University, Associate Professor
久保 康之 京都大学, 農学部, 講師 (80183797)
横山 和正 滋賀大学, 教育学部, 助教授
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研究概要 |
本年度の調査は,ニュージーランド,ニユ-カレドニア,オーストラリアの3地域で行った。得られた成果は以下の通りである。 1.ニュージーランドにおいては,動物死体分解に関与するいわゆるアンモニア菌類の遷移を1993年に設定した実験プロットで調査した。この結果,ノトファグス林内に設置した動物死体(pposum)置床区,尿素散布区における菌類遷移の後期の状態を明らかにすることができた。これらの菌類は,わが国において出現するものと同一種あるいは同属のキノコであった。従って,菌類相の遷移は日本を含めた北半球の広葉樹林で同様な経過をたどるものと考えられる。現在,これらの菌類の種内及び属内での分化について検討中である。 2.ニューカレドニアについては,菌類の基質となる植物相の調査を中心に行った。本島には,高等植物の固有種が極めて多く分布し,世界的に注目されている地域である。昨年度に引き続く調査で,本島の植生の特徴及び今後調査すべき重点地域が明かにできた。すなわち,本島の植生は,谷沿いによく発達しているものの,広大な面積を占める山の斜面はサバンナ状の貧弱な植生からなる。ここには,貧栄養を反映してDrasena,Nepentesが随所にみられる他,雨の多いことを反映してScleriaが多く認められた。固有のイネ科植物も多数分布する。また,本島の最高峰であるパニエ山とフンボルト山の両山については,前者は急峻で登山道が確立されていないため,植生調査が十分でないことが明かとなった。後者については,平地から中腹までは,ヨーロッパからの入植とほぼ同時に牧草に置き換えられ,自然状態ではなくなっているが,勾配の急な上部の植生調査はまだ十分行われていないことが判明した。共に登山ルートの確保が難しいものの,今後の調査によつては,種子植物の新種の分布の可能性も考えられた。なお,今回の調査でおよそ400点の種子植物が採集でき,この地域の資料としてわが国に初めてもたらされたものとなった。植生と菌類との関連を研究する上での貴重な資料となる。本島にはさらに多くの植生が分布するから,今後さらに継続して調査すべき地域と考えられる。 3.タスマニアにおける調査は,主としてノトファグス・ユ-カリ混交林で行った。この結果,アカイカタケ,ウスヒラタケ,ナラタケなどわが国との共通分布要素が初めて確認できた。さらに,猛毒を有するAmanita,Boletus属の世界未報告種と考えられるものが採集できた。また,林内の倒木上に発生するヒダナシタケ類に関しても多数の資料が得られた。従来,わが国でコフキサルノコシカケをヨーロッパ産のGanoderma applanatusと同一と見なしてきたが,ヨーロッパ産の標準試料との比較検討から,これとは異なるものであることが明らかにされてきている。このような問題を検討する際に欠かせないものが含まれている。Ganoderma及びHeterobasidion属菌がその一例である。わが国の高等菌類,特にキノコ類に関しては,同定ミスが多いことから,今後の日本菌類相の研究に役立つ資料となる。種子植物についても,本島固有種を中心に約100点の標本をわが国に初めてもたらした。 4.菌類遺伝子資源の確保という観点からは以下のような成果が挙げられた。ヒダナシタケの各種には,抗癌活性が報告されているが,南半球産のものに関しては・効力の検討・成分調査などを行った事例は認められない。これが可能となる培養菌株を得ることができた。また,従来からタスマニアにはツキヨタケ類似菌が分布すると言われてきたが,本菌がOmphalotus nidiformisであることが初めて確認できた。本菌の発光はツキヨタケより強く,培養に成功したことから,今後,発光に関与する化学物質・酵素などの分析とその利用に関する研究も計画している。さらに,タスマニア産のサルノコシカケTyromyces pulcherrimusの培養菌株も得られ,食用菌としての利用が展望される。 5.3調査地域から,ノトファグスの分化とその寄生菌であるキッタリアの共進化過程を考えるための資料として,ノトファグスの新鮮資料を採取した。これは,ニューカレドニアに分布する常緑種5種,ニュージーランド産5種及びタスマニア産の2種である。現在,DNA分析を行って,ノトファグス側の種分化について解析中である。 なお,採集資料はすべて,調査地域の研究者・政府機関の承認を得て持ち帰った。
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