研究課題/領域番号 |
05041100
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
小野 幹雄 東京都立大学, 理学部, 教授 (80087155)
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研究分担者 |
鈴木 和雄 東京都立大学, 理学部, 助手 (50187712)
岡 秀一 東京都立大学, 理学部, 助手 (50106605)
大賀 宣彦 千葉大学, 理学部, 講師 (70009059)
増沢 武弘 静岡大学, 理学部, 助教授 (40111801)
MUNOZ SCHICK Melica Museo National de Historia Natural, Santiago, CHILE
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研究期間 (年度) |
1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
6,900千円 (直接経費: 6,900千円)
1993年度: 6,900千円 (直接経費: 6,900千円)
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キーワード | ロマス植生 / 乾燥適応 / 種分化 / 砂漠 / 南アメリカ / 埋土種子 / ポリネーション(送受粉) / ノラナ属 |
研究概要 |
チリ-中北部太平洋岸の乾燥地で、前回の調査で選定したコピアポ北方の丘陵地、及びさらに北方のアントファガスタからトコピアまでの海岸砂漠とその内陸に対象地を広げて、そこに出現するロマス群落について以下の調査研究を行った。 (1)隔離されたロマス相互間の近縁植物群の分類学的位置ずけ、とくにNolana(ノラナ科)Calandrinia(スベリヒユ科)各属における核型の変異の解析と、葉緑体DNAの比較による遺伝的距離の計算を通じて、これらの植物群の種分化を調べるため、生葉と生存種子の収集に努めた。 (2)Nolana属など個体数が多く、成長量の大きな草本につき、発芽から開花、結実、枯死にいたる生活史の間での生産量とその配分状況を経時的に追跡した。 (3)埋土種子集団の種子収支、とくに乾燥条件下での種子の寿命についてのデータの集積。また埋土種子量の消長からロマス群落の潜在的成立可能範囲を追跡した。 (4)対象とするロマス群落において、主要な構成植物であるノラナ属植物の種の繁殖様式と訪花昆虫との関連を調査した。この調査に当たっては蛍光パウダーを用いて花粉の拡散状況を追跡した。また今回の調査でこのノラナ属の繁殖様式が外交性(outbreeding)で、その主たる訪花昆虫がハナバチ類であることが明らかになった。 (5)乾燥条件のもとでロマスを成立させている微気候条件の把握のため、各所で気象観測や土壌水分の測定を行った。 (6)ロマス構成植物の中で乾燥に対する対応が全く異なる代表的な種類として、Nolana,Argylia,Calandriniaについて、植物体の浸透圧を測定し乾燥適応の機構に大きな違いを見いだした。 (7)調査地域内の数点で精密な気候条件の測定を行うとともに、今回初めて砂漠の内部での土壌水分の測定を行った。このデータについては今後さらに解析が必要である。また対比のため、調査地域のCopiapoより北方の各地で気候、土壌条件の測定と気象観測データの収集に努めた。 これらの結果、もっぱら海霧によって支えられる本来のロマス植生と、わずかながらも降雨によってスタートする植生の関係を、分布と気候条件の関連で精査し、従来ややあいまいであったロマスの概念を明確にすることができた。すなわち、ペル-海岸砂漠のロマスでは植生を支える水分は原則としてその全量が空中の水分、つまり海霧である。この海霧が結露した水分によって短い生活史を全うする植生がいわゆる草本ロマス(Herbaceous lomas)である。またこのような草本ロマスが毎年のように繰り返し成立するようなところでは、余剰水分の蓄積が起こって地下水を生じ、その付近に低木ないし小高木の生存が認められるようになる。その植生が低木ロマス(Shurabby lomas)であろう。さらに砂の移動があるようなところではヒガンバナ科のStenomesonやユリ科のFortunetiaなどの球根植物の群落が出現する。これらが本来の意味でのロマス植生である。 これに対し今回の調査で対象としたチリ-北部の乾燥地季節草原は、少なくともその発生(発芽)時において降雨が原因しているものと思われる。発生後の群落の維持は霧に依存しているので、これをロマスと呼ぶことは可能であるが、少量といえども降雨が引金となるとすればペル-に見られる典型的なロマス植生とは性格上若干の違いが認められる。もちろん構成種のフロラ的な違いも存在する。この知見にもとずいてチリ-北部のロマス様植生を新たなカテゴリーとして認識するべきとする提案を行いたい。
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