研究課題/領域番号 |
05041108
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大塚 柳太郎 東京大学, 医学部(医), 教授 (60010071)
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研究分担者 |
永野 恵 熊本大学, 医学部, 助手 (10136723)
稲岡 司 熊本大学, 医学部, 講師 (60176386)
本郷 哲郎 東京大学, 医学部(医), 助手 (90199563)
須田 一弘 北海学園大学, 人文学部, 講師 (00222068)
中澤 港 東京大学, 医学部, 助手 (40251227)
川端 真人 神戸大学, 医学部, 教授 (30175294)
口蔵 幸雄 岐阜大学, 教養部, 教授 (10153298)
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研究期間 (年度) |
1993 – 1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
20,000千円 (直接経費: 20,000千円)
1995年度: 6,500千円 (直接経費: 6,500千円)
1994年度: 7,000千円 (直接経費: 7,000千円)
1993年度: 6,500千円 (直接経費: 6,500千円)
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キーワード | 焼畑農耕 / 近代化 / ライフスタイル / 資源利用 / 医学生態学 / パプアニューギニア / 感染症 / 成人病 / 栄養状態 / 人口再生産率 / 感染症罹患率 / 人口支持力 / 農村-都市移住 / マラリア / 農村一都市移住 |
研究概要 |
本研究は、パプアニューギニアの高地、山麓部、低地に居住する諸集団(個体群)を対象に、医学生態学の視点から、伝統的な焼畑農耕に依存するシステムが近代化の影響を受ける過程での変化を解析した。その主たる成果を、低地の集団としてはマヌス州に居住するバロパ族、高地(及び山麓部)の集団としては南部高地州に居住するフリ族、それにこれらの農村地域から首都ポートモレスビ-に移住した集団について整理すると、以下のように要約される。 I.低地の集団の適応・健康に関する主たる成果 1.島嶼部の住民は海産資源の利用に代表される環境適応に加え、歴史的に西欧文化との接触が他地域より早く今世紀初頭に始まったことが、住民の適応・健康状態に強く反映していた。 2.人口動態の分析結果により、1970年代から家族計画に基づく出生率の低下と若年層を中心とする都市への移住が顕著に認められた。このことは、人口密度が50人/km2を超し人口支持力の限界に近づいていることと関連していた。 3.栄養状態を反映する生体計測値はSecular trendが認められたものの、BMI値が著しく高かった(40歳代ではメディアンが28)。このことについては、Neelが主張する倹約遺伝子仮説とも関連させ詳細な解析が今後必要となろう。 4.肥満傾向の多発、高血圧に代表される「成人病」の罹患率の上昇が顕著に認められ、血圧値と尿中の尿素窒素及びナトリウム濃度が相関することから、遺伝素因に関連するとしても近代化の影響の寄与が大きいと判断された。 5.また、本研究の対象地域がウイルス(HBV、HCV、HTLV-I)の高汚染地域であることが明らかになり、遺伝及び環境適応の視点からさらに研究する必要が示唆された。 II.高地の集団の適応・健康に関する主たる成果 1.近代化の歴史が浅いため、人々の生業は現在もサツマイモ耕作とブタ飼育に強く依存している。土地利用パタンの変化を1970年代から現在にかけて検討した結果、休耕期間の短縮と土地の生産性の低下のため耕作地は1.2〜1.8倍に拡大し、それにともなって一次林、二次林ともに顕著に減少した。それにもかかわらず、換金作物栽培などの持続的可能な現金収入源は未発達であった。 2.生体計測値の分析によると、フリ族は低地集団に比較すると低身長なものの、低栄養の兆候はみられなかった。食事調査の結果、摂取エネルギー・タンパク質ともにFAO/WHOの所要量を満たしていた。総摂取エネルギーに対するサツマイモの寄与は80%をこえ、購入食品の占める割合はわずかに10%未満であった。 3.生活時間調査の結果、農村部の主たる生業であるサツマイモ耕作は女性に強く依存した労働形態によって維持されているため、女性の労働時間は男性の2倍以上であり、エネルギー消費量に基づく生活活動レベルは、男性が「軽い〜中度」であったのに対し、女性は「重い」であった。一方、フリ族居住地内の都市部の住民は、農村部の住民に比べ労働時間が長いものの、労働のエネルギーコストが低かったためエネルギー消費量に農村部との差はみられなかった。 4.フリ族に医療サービスが導入されて以来、死亡率の減少によって人口が急増している。フリ族の死亡構造の検討の結果、マラリアの存在する地域においてのみ高い乳児死亡率が見られた。 III.首都への移住者集団の適応・健康に関する主たる成果 1.首都のポートモレスビ-では、総人口の25%がセトルメント地域に居住している。この地域は、移住者が集住することによって自然発生的に形成されてきたため、政府による公共サービスの整備が比較的遅れている。対象とした高地出身者(フリ族)は、セトルメントに居住しインフォーマルセクターに従事する者が多く、対照的に低地出身者(バロパ族)のほとんどはフォーマルセクターに従事し一般住宅に居住していた。 2.高地出身者のライフスタイルと関連させて行った、世帯レベルでの食物・栄養素摂取量調査の結果から、タンパク質と脂質の摂取レベルが母村部と比較すると顕著に高く、循環器疾患のリスクとなっていることが明らかになった。 3.高血圧あるいは肥満は高地出身者に比べて低地出身者に多かった。その主な原因は、遺伝的背景が関与するとしても、移住後のライフスタイルの違いにあると考えられた。
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