研究課題/領域番号 |
05042010
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | がん調査 |
研究機関 | 埼玉県立がんセンター |
研究代表者 |
藤木 博太 埼玉県立がんセンター研究所, 副所長 (60124426)
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研究分担者 |
MURPHY P. オーストラリア海洋化学研究所, 部長
QUINN R.J. グリフィス大学, 薬理学研究所, 所長
BAKER J.T. オーストラリア海洋科学研究所, 所長
菅沼 雅美 埼玉県立がんセンター研究所, 血清ウィルス部, 研究員 (20196695)
伏谷 伸宏 東京大学農学部水産科学研究所, 教授 (70012010)
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研究期間 (年度) |
1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
3,200千円 (直接経費: 3,200千円)
1993年度: 3,200千円 (直接経費: 3,200千円)
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キーワード | 海洋天然物 / プロテインホスファターゼ / 蛋白イソプレニール化 / オカダ酸 / 抗酸化物質 / オーストラリア / 発がん抑制物質 / コンピューターグラフィックス |
研究概要 |
1.研究目的 オーストラリア国立海洋科学研究所(AIMS)ベーカー所長、並びに、グリフィス大学薬化学研究所クイン所長は、海洋天然物を用いた発がん機構の研究、及び、発がんの抑制、がんの化学予防の研究に大きな関心を示し、過去3年間、いろいろと私共の研究に協力いただいた。この貴重な共同研究体制を基に、私共はオカダ酸様発がんプロモーターの研究、並びに、抗オカダ酸様物質、抗酸化物質、蛋白イソプレニール化阻害物質等による発がん抑制の研究、更には、コンピューターモデルを用いた新しい発がんプロモーターの化学的研究等を通じ、豪日がん研究の新しい芽を作ることを目的としている。 2.研究成果 (1)オカダ酸発がんプロモーター AIMSから送られた海綿や棘皮動物等の海洋生物24種類の抽出物につきオカダ酸と同様プロテインホスファターゼ2A(PP2A)の活性を阻害するか検討した。24抽出物の内、Caulerpa(緑藻)、Crella(海綿)、Tropiometra(棘皮動物)等の抽出物はPP2Aの活性阻害を示し、その他の21抽出物は阻害活性を示さなかった。オカダ酸は海綿に含まれるが、緑藻や棘皮動物には含まれていない。したがって、これらに含まれるPP2A阻害物質はオカダ酸と異なる新規物質と期待され、現在AIMSで精力的に精製が進められている。 (2)抗オカダ酸様物質 オカダ酸は、PP2Aの活性を強力に阻害する化合物であり、強力な発がんプロモーターである。逆に、PP2Aの活性を促進する化合物が見出されると、発がんプロモーション活性を阻害し、発がんを抑制すると考えられる。AIMSから送られた上記24抽出物内で、一つの海綿抽出物(1mg/ml)がPP2Aの活性を約4倍活性化した。即ち、オカダ酸と逆の効果を示したのである。この海綿に含まれる化合物はオカダ酸の発がんプロモーション活性をもとにもどす化合物と期待された。現在精製を進め、活性促進の確認やその再現性を検討している。 (3)抗酸化物質 サンゴ礁に生育する生物は強力なUVや日射による熱、潮の干満に伴う乾燥に耐えるために、いろいろな抗酸化物質を備えている。ノリには抗酸化活性がないshinorineが含まれているが、海洋生物はこのshinorineを摂取し、生体内で抗酸化能をもつmycosporine-glycineに変換する。このshinorineやmycosporine-glycineがオカダ酸によるBALB/3T3細胞からの内因性発がんプロモーター、マウスTNF-aの遊離を抑制するか検討した。もしこれらの化合物がTNF-aの遊離を抑制すれば、発がん抑制物質として考えられる。しかし、shinorineやmycosporine-glycineは共にTNF-aの遊離を抑制しなかった。抗酸化と発がんとの関係を直接結びつけることは容易ではない。 (4)オカダ酸クラス発がんプロモーターのキメラ化合物 グリフィス大学クイン所長はコンピューターを用いた三次元構造解析により、オカダ酸、カリキュリンA、及び、ミクロチスチン-LR等の3種類の化合物がレセプター結合部位、触媒部位をそれぞれ共通の配位に置くことを見出した。このデータを基に彼らは、カリキュリンAの結合部位とミクロチスチン-LRの触媒部位のキメラ(1)、或いは、ミクロチスチン-LRの結合部位とカリキュリンAの触媒部位のキメラ化合物(2)の合成を始めた。まず前者(1)の化学合成の完成が間近である。私共はこのキメラ化合物を用い、PP2Aに対する結合性、活性阻害をそれぞれの母体化合物と比較検討する準備を進めている。 3.まとめ 海洋天然物を貯蔵している量やその種類に於て、AIMSが貴重なカウンターパートであることは正しい。しかし、そこでの研究活動が決してactiveでないことは内部の研究者だけでなく、外部の私共にも感じられた。日本との共同研究がこの面で、何らかの刺激となったかはわからないが、AIMSの活性化が本格的な問題になってきている。それに対し、グリフィス大学薬化学研究所は、企業から援助を受けて、次の時代へ向った準備を着々と進めている。オーストラリアの2つの研究所の動きから、非常に多くのことを学んだ。
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