研究分担者 |
當作 靖彦 カリフォルニア大学, サンデイエゴ校, 準教授
畑佐 由紀子 アメリカ合衆国 ハデュ大学, 文学部, 助教授
田中 和美 英国 ロンドン大学, ソアス研究所, 講師
直井 恵理子 メキシコ ヌエボレオン州立大学, 文学部, 講師
畑佐 一味 アメリカ合衆国 ハデュ大学, 文学部, 助教授
MCCARITHY Br オーストラリア ウロンゴン大学, 外国語学部, 助教授
WELLS Margur オーストラリア ウロンゴン大学, 外国語学部, 助教授
吉崎 静夫 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (20116130)
大坪 一夫 東北大学, 文学部・日本語学科, 教授 (20115538)
山元 啓史 筑波大学, 文芸・言語学系, 助手 (30241756)
小林 典子 筑波大学, 文芸・言語学系, 講師 (00241753)
酒井 たか子 筑波大学, 文芸・言語学系, 講師 (40215588)
加納 千恵子 筑波大学, 文芸・言語学系, 助教授 (90204594)
市川 保子 筑波大学, 文芸・言語学系, 助教授 (70223089)
KAISER Stefan 筑波大学, 文芸・言語学系, 教授 (20260466)
周 錦樟 筑波大学, 外国語センター, 外国人教師
畑佐 由起子 パデュー大学, 外国語文学部, 助教授
MARGUERITE W ウロンゴン大学, 外国語学部, 助教授
STEFAN KAISE 筑波大学, 文芸・言語学系, 教授
栃木 由香 筑波大学, 留学生センター, 非常勤講師
清水 百合 筑波大学, 留学生センター, 非常勤講師
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研究概要 |
1. 本年度の研究は,日本語の授業における学習者の認知・情意過程と教師の意思決定の過程を実証的に検討することを目的とし,そのために,前年度と同じ研究枠組みで以下の調査を行った。 (1)日本語授業における学習者の認知・情意過程を把握するための方法論の検討を行った。 (2)学習者の日本語学習における認知(思考・理解)がダイナミックに変容していく過程を把握することによって、どのように日本語が習得されていくかを明らかにした。 (3)日本語習得過程において学習者がどのようなストラテジーを用いているかを明らかにし,学習者トレーニングの方法を検討し,学習者の自律学習を促す方法を検討した。 (4)授業において教師は学習者の認知過程をどのよう把握しながら意思決定をしているかの検討を行った。 本年度は,オーストラリアのウロンゴン大学を重点調査校とし,日本語教育の専門家と教育工学の専門家の協力により調査を行った。特に(4),教師の意思決定過程の調査では,オーストラリア人日本語教師と日本人教師の比較を行った。 ウロンゴン大学での調査の結果は以下のものである。 (1)日本語教育の専門家でない日本人日本語教師は,教科書依存型であり,教科書に記述されていない言語知識の説明に関しては自信がなく,沈黙の時間が長く教科書依存型の教授法を行っている。海外では,日本語教師が不足しており,日本語教育を専攻していなくても教壇に立ち,日本語を教えなければならないという事情があり,海外での日本語教育の特殊性が明らかになった。 (2)日本人教師,オーストラリア人の教師であってもコミュニカティブアプローチで教えるのは難しいということが分かった。このことは,他の調査校でも同じで教師が正誤だけでなく適・不適を判断しなければならなくなり,海外の滞在が長い教師には判断が難しくなる。 (3)学習者の認知過程に関しては,授業時間が少なく,日本語との接触が少ないため記憶や連想などのストラテジーの使用が少ない。また,筑波大学のような文化依存型の日本語授業と違って動機の低下,情意過程の停滞が見られた。海外の学習者の日本語習得に関する認知過程,日本語に接触する機会が教室だけに限られており,授業計画,教授法,教材等の重要性が明確になった。 2. アメリカのカリフォルニア州立大学サンディエゴ校では,漢字の学習における学習者の認知過程の調査を行った。日本語の「読
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み」「書き」に対する印象は,楽観的とは言いがたいが,「漢字は自習できる」と自負していることが分かった。 3. 「日本語教育における文化と科学を考える」というテーマで国際シンポジウムを開催した。海外からの研究分担者にパネリストとして参加し,意見交換が行われた。 パネリストの発表は以下のものである。 ・「SFJ」の使用例…メキシコヌエボレオン州立大学の場合 直井恵理子 ・日本語自他動詞使用は習得可能か不可能か 小林典子 ・教師と教材使用 …オーストラリア4大学訪問報告‥ 市川保子 ・米国中世部のカリキュラムにおける第二言語教材の適応性 畑佐由紀子 ・海外での日本語教育における文化の役割 當作靖彦 5. 本年度の研究成果は以下のものである。 ・学習ストラテジーと学習者習得レベルとの関係 成績上位の学習者のストラテジー使用は,下位者のものより多様で,特に先行オルガナイザーの使用は顕著である。また,筑波大学のような文化依存型での日本語教育では,コミュニケーションストラテジーおよび補償ストラテジーの使用が多く,その定着が早い。 ・教師の意思決定過程におけるエキスパートとノヴィス,ネイティブの教師の授業行動の対照の分析結果はノヴィスや海外ネイティブの教師は,言語知識の正誤判断より適・不適の判断が難しいことが分かった。教材を生かせない教師のタイプとして,(1)こだわり型(2)飛躍しすぎ型(3)指示待ち型の3つの特徴が表れ,文化非依存の環境で日本語を教える日本語教師に対するトレーニングが必要である事が分かった。 ・学習者の情意・動機が言語習得に与える影響 日本で日本語教育を行う文化依存型の教育では,動機や情意的なものが回りの環境によって支えられるが,海外では,学習者が日本・日本語に対する興味を失わないように,ビデオ教材,マルチメディア型のCAI教材等の情報提供が必要である。 ・文法の背後にある文化的要因 学習者の文化背景は学習の仕方,学習ステラテジ-などに密接な関係があり,教授法やシラバスを考える際に十分に考慮されなければならない。このように文化と言語教育が深くかかわっているにもかかわらず,長い間,文化にはあまり注意が払われず,現在も言語学習における文化の役割や文化的能力の発達プロセスの研究が進んでいない事が分かった。初級日本語レベルにおける文法教育でも文化的コンテキストを使用することが重要な点である。とくに待遇関係などは,「ウチ」「ソト」の文化概念との関係で説明されなければならないし,省力表現は,「未練」(牧野成一)の概念などと関連があると考えられている。文化要因を意識した上で,これらの文法項目の練習が必要である事が明らかになった。 今後の課題 今後の課題として,(1)教材情報のデータベース化(教師支援)(2)各大学教授法のビデオ作製 (3)学習社の情意・動機言語習得における影響の調査方法の検討 (4)文法の背後にある文化的要因の調査方法論の検討など多くの課題が残されている。これらの件については平成7年度に研究報告書として,この2年間の成果をまとめるつもりである。 隠す
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