研究分担者 |
WORTMANN RUD マインツ大学, 講師
RETTIG WOLFG フンボルト大学, 教授
BALIMANN WOL マインツ大学, 教授
平田 善則 大阪大学, 基礎工学部, 助手 (90135674)
坂田 祥光 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (60029874)
BAUMANN WOLF マインツ大学, 教授
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研究概要 |
極性溶媒との相互作用により分子内で電荷分離状態を形成する分子として知られる9,9′-ビアントリルやN,N-ジメチルアミノベンゾニトリル等に関連したアントリレン化合物、双極子を持ったラジカル対の再結合ダイナミックスおよび配向を固定した系の電子移動反応について次のような研究を行った。 1.マインツ大学におけるアントリレン化合物の励起状態双極子モーメントの測定 アントリル基を単結合で2〜4個つないだオリゴマー系の励起状態における双極子モーメントμを,外部から与えた電場によって誘起された蛍光の異方性を観測する手法(Electro Optical(EO)法)で調べた。蛍光強度qを観測波数ν,外部電場Eに対する観測角度φとの関数としてq(E≠0)=q(E=0)[1+X(ν,φ)Ε^2]と観測したとき,実験的に測定できる値X(ν,φ)を用いてμが求められる。シクロヘキサン、ジオキサン、トリフルオロトルエン中のμを測定した。μの値はアントリル基の長さよりむしろ置換基の種類(シアノ基,ヘキシル基,tert-ブチル基)に顕著に依存する。シアノ置換体の場合,過渡吸収スペクトル・蛍光量子収量の溶媒効果から、無極性溶媒中でも部分的に電荷分離し,極性溶媒中では分子内イオン対に近い状態をとることが分かっているが,EO法で得られたμの値もこの結果を支持する。ヘキシル置換体は蛍光のStokesシフトが著しく大きく、従って、大きなμの値が期待されたが、今回測定した溶媒中の値は蛍光スペクトルから予想された値より小さかった。一方、tert-ブチル置換体はStokesシフトをほとんど示さない。極性溶媒中の過渡吸収スペクトルもヘキシル置換体とは大きく異なっていて,μが小さいことを示唆している。ヘキシル置換体とtert-ブチル置換体とを比較した場合,ヘキシル体のみに大きなStokesシフトの原因については現在検討中である。 一般的に、外部電場による蛍光の異方性を観測することにより、励起状態の双極子モーメントを直接測定した結果、通常用いられる方法である蛍光のストークスシフトにたいする溶媒効果から見積もられる双極子モーメントに較べてはるかに小さな値を観測した。これは、溶媒との相互作用によって分子構造が変化し基底状態のポテンシャルが溶媒によって少しずつ異なるためと解釈している。このような現象は、今回取り上げた化合物ばかりでなく、一般に、大振幅振動と電子状態がカップルしている系においてみられるものと考えられる。ビアントリルの溶媒誘起電子構造変化に関して、時間分解蛍光スペクトルの理論的解析を進めており、この結果とも併せて検討する必要がある。 2.アミノフェニルジスルフィドの光解離とジェミネート再結合のダイナミックス p-アミノフェニルジスルフィドの無極性溶媒中の光解離により生成するジェミネート対の挙動をピコ秒過渡吸収測定法により調べた。その結果ジェミネート対、ラジカルダイマー、フリーなラジカルをスペクトル的に区別することができた。即ち、励起直後ジェミネート対を形成するラジカル間の相互作用によりブロードな吸収スペクトルを得た。また、ジェミネート再結合により生成したp-アミノフェニルチイルラジカルのダイマーによる吸収を観測した。このようなラジカルダイマーの観測はこれが初めてである。これはラジカルの持つ大きな双極子モーメントの効果であり、このため対を成すラジカルのミクロ領域での拡散と溶媒和に関する知見を得ることができるようになった。 3.配向を固定したポルフィリン-フラーレン化合物の光誘起電子移動 亜鉛ポルフィリンとフラーレン(C_<60>)をアミド結合を介して固定し、亜鉛ポルフィリンの励起1重項状態からC_<60>への電子移動反応を初めて測定した。極性溶媒中ではやく60psで電荷移動し数100psで再結合することが判った。無極性溶媒中では電子移動と競合して僅かではあるがエネルギー移動も観測された。両分子間の配置の異なる化合物群を合成中でありそれらについても研究を続ける。
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