研究課題/領域番号 |
05044091
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上田 〓亮 京都大学, 工学部, 教授 (00025959)
上田 皖亮 京都大学, 工学部, 教授
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研究分担者 |
MCROBIE F.A. ロンドン大学, ロイヤルソサエティリ
STEWART H.B. ブルックヘブン国立研究所, 数学者
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研究期間 (年度) |
1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
1993年度: 2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
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キーワード | 非線形力学系 / シミュレーション実験 / 分岐現象 / 不確定結果 / ミノルスキー方程式 / 引力圏境界 / 莢叉軌道法 / 位相同期系 |
研究概要 |
本研究の目的は非線形力学系の挙動を理論的に、かつ広範囲にわたる数値シミュレーション実験を通して理解することである。現実の物理系および工学系のいくつかの本質的な特徴を含んだ系が、二階の振動系を含む原形モデルとして選択されている。これは不必要な複雑さを無視することによって基礎的な明察が得られることによる。一個のパラメータを含む分岐現象の包括的な再調査と分類を完成した。安全型、爆発型および危険型が区別され、応用に際して基本的に関係する諸現象に結びつけられた。すなわち、応答の連続性あるいは不連続性、ヒステリシス特性および不確定結果である。ポテンシャル井戸からの脱出現象の研究は減衰係数の広範な値にまで拡張された。最適な脱出と共鳴間の密接な関係が確認された。すなわち、分岐パターンにおける微妙だが重要な変化が発見され、かつそれらの実験的研究に対する意味が解明された。 ミノルスキー方程式(ミノルスキー,J.Appl.Phys.,19巻,1948年.参照)によって表わされる時間遅れをもつ非線形方程式を考察した。ミノルスキー氏は能動的な船舶安定化の研究に際して遅れ時間を導入した。微差分方程式とも呼ばれる時間遅れをもつ微分方程式は無限次元の位相空間を持っている。引力圏境界の大域的な特徴は容易に理解できないが、それらは大きな実用的意味を持っている。 以前我々は位相空間の一断面を格子状に区切った各格子点を出発点とした「じゅうたん爆撃」的実験を行うことにより或る程度の成果を得たが、今回は引力圏境界を決定している不安定な根元集合に注目した。莢叉軌道法を数値的に実行することによってこの根元集合の所在を突き止めることが出来る。本方法による取り組みはじゅうたん爆撃法による方法に比して、引力圏の構造についてより多くの明察がもたらされる。たとえば、アトラクタから不安定な根元集合までの距離を考慮した安定性指標を求めることの出来る可能性がある。これは将来に残された研究課題である。 我々はまた、時間遅れを含む位相同期系を表わす一階の微分差分方程式を考察した。この方程式に含まれるパラメータは遅れ時間の他に位相同期系の自走周波数と入力周波数の差、すなわち離調度がある。位相同期系は情報通信分野をはじめ広範な制御工学の応用分野で実用されている。そこで我々は、入力周波数を一定に保ち、広範囲にわたって遅れ時間を変化させた場合の系の動作を究明した。その結果、カオスアトラクタや複数個のアトラクタの共存などを包含した種々の非線形現象が観察された。また、変化に富んだ分岐現象も観測され、不安定な同期軌道もハ-モニックバランス法を適用することによって求められた。さらにこれらの不安定同期軌道と共存する複数個のアトラクタ間の関わり合いも確認された。この系を表わす位相空間もミノルスキー方程式の場合と同様、無限次元であるが、数値シミュレーション実験を行なったパラメータ変化域の範囲内では、カオスアトラクタの青空消滅(境界危機)などを含む分岐現象が観測されたが、これらの諸現象の幾何学的構造は何れも低次元力学系において知られているものに一致していた。 莢叉軌道法は、複数個のアトラクタを持つ力学系の、アトラクタの引力圏境界を決定している根元集合の所在を突き止めるのに有力な手段として知られているが、この手法の適用限界についても考察した。すなわち、力学系の引力圏境界はスムースな場合とフラクタルな場合が在る。これらの何れの場合に対しても根元集合の構造はレギュラーな場合とフラクタルな場合が在る。したがって、力学系の大域的アトラクタ引力圏構造は上記の組合せ、つまり4通りのタイプに分類される。莢叉軌道法をいくつかの系に適用したところ、本手法は引力圏境界がスムースな場合は、根元集合がレギュラー、フラクタル何れの場合も有効で妥当な結果をもたらすことが明らかとなった。しかし、根元集合がたとえレギュラーであっても引力圏境界がフラクタル構造をしている場合は、莢叉軌道法はレギュラーな根元集合に収束しない一例を数値実験によって明らかにした。この事実に対する系統的究明は今後の課題である。
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