研究分担者 |
DICRESCENZO アントニオ University of Naples Dept. of Mathematics, 講師
STIBER Micha 香港科学技術大学, 計算機科学科, 講師
SEGUNDO Jose Univ. of California Dept. Anatomy and Cell, 名誉教授
野村 泰伸 大阪大学, 基礎工学部, 日本学術振興会 特別
土居 伸二 大阪大学, 基礎工学部, 助手 (50217600)
STIBER MICHA 香港科学技術大学, 講師
SEGUNDO JOSE カリフォルニア大学, 医学部, 教授
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研究概要 |
生体における様々な情報の変換や伝達は神経系の働きによって行われている.神経系で情報は神経インパルス列のパルス頻度によって担われていると考えらている.神経系は多くの神経細胞の複雑なネットワークを構成しており,一つ一つの神経細胞は他の神経細胞が発するインパルス列を受け取り他の細胞にインパルス列を出力する.従って神経系における情報処理様式を明らかにするにはまず1個の神経細胞においてどのような情報処理・情報変換がなされているかを調べる必要がある.とりわけ,神経細胞にパルス列を入力したときにどのようなパルス列を出力するかというパルス列変換特性を調べることはきわめて重要な課題である.われわれはこの問題すなわち神経コーディングの問題について非線形力学系の分岐理論の観点から研究し次の成果を得た. 1)Hodgkin-Huxley方程式やその簡約化モデルを説明し,パラメータ変化に伴うモデルの振舞いの分岐図(分岐構造)を明らかにした.これによって,神経細胞の興奮現象(およびそのモデル)は,可興奮で振動的なダイナミクスを本質的特徴としてもつ力学系のクラスに属し,かつそのクラスの主要な部分を占めることを示した.また,系を規定する一般に複数の分岐パラメータの値の組が,神経細胞の振舞いにエンコードされるべぎ情報"であるという観点に立ち,神経細胞の振舞いにどれだけの情報がコードできるかを考察した.モデルの数学解析から得られたパラメータ空間内の定性的分岐構造と,各パラメータセットに対して細胞モデルが発するインパルス列の平均周波数や時間パターン,活動電位波形,インパルス間隔のヒストグラムなどを対応付けた.これをニューラルコードの候補とした. 2)反復興奮する振動性膜(ペースメーカ細胞)を力学系の言葉で神経振動子と呼び,その数学的解析について述べた.振動子の状態を表す位相は,アイソクローンと呼ばれる安定多様体を用いて定義される.アイソクローンとはリミットサイクル上の任意の点をω極限点とし,(振動子の固有周期に等しい)一定時間間隔ごとの観測でそれに漸近する点の集合のことである.アイソクローンを用いと,リミットサイクルに含まれない状態点を位相に類似する量で表すことが可能になる.そして時間的に短い摂動を受けた直後の振動子の位相を,摂動を受けたときの位相の関数として表すことができる(基本的位相遷移曲線). 3)周期パルス列刺激を受ける振動性膜の振舞いを解析した.特に,周期パルス刺激を受けるBVP振動子の振舞いが,定性的にではあるがペースメーカ細胞を用いた電気生理学実験の結果をほとんど完全に説明した.BVP振動子が出力するインパルス列の時間パターンは刺激の周期や強度に依存して多様に変化する.周期パルス刺激を受ける振動子のダイナミクスを1次元離散力学系に還元し,振動子の振舞いの変化をこの1次元写像のパラメータ変化に伴う分岐現象として説明した.さらに,振動子が出力するインパルス列の様々な時間パターンと,1次元離散力学モデルのアトラクタとの関係を詳細に調べた. 4)周期バースト刺激や周期的に周波数変調されたパルス列入力を受ける振動性膜の振舞いを調べた.解析の結果,様々な時間パターンのパルス列入力を受ける神経細胞の振舞いを知る目的に対して,周期パルス列入力が有効なテスト入力列の候補である. 5)可興奮/振動性膜の結合系を2種類構築しその振舞いを調べた.1つは,多数の可興奮性膜が電気的(拡散的)に空間的に一様に結合した系である.系に適当な摂動を加えたときに,渦巻状の空間パターンを伴う興奮伝搬が発生することを示した.この渦巻解は安定で周期的である.もう1つは,4個の可興奮性膜を多少複雑な性質のシナプスモデルで繋いだ結合系である.系は自律的に周期交番バーストパターンを発生する.系に正弦波入力を加えたとき,各細胞モデルの興奮が入力信号と位相同期することを示した.これらの系の振舞いの詳細な解析は今後の課題である.
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