研究概要 |
人間の体をはじめとしてゲルは,生物の中で生命をつかさどる上で重要な働きをしている。また,リン酸は生体系において2分子膜等,生体機能を発揮する上で重要な働きをしている。そこでわれわれはリン酸基を含む高分子ゲルの化学構造を明らかにすると共に構造を制御することで,まず生体親和性に優れた刺激応答性を有するゲルの作製を試みた。リン酸基含有ゲルとしては,まずリン酸基を含有するメタクリル酸系のモノマーPhosmerをN,N-ジメチルアクリルアミド(NIPAM)と架橋剤存在下で共重合することにより作製した。このゲルの膨潤挙動について種々検討した結果,pH,温度および溶媒組成などの外部刺激により可逆的に膨潤・収縮することが明らかになった。そこでゲルを構成する高分子,特にリン酸基の錯体形成能の刺激応答性を利用することにより,ハイドロゲルからの薬物徐放性能について検討を行った。モデル薬物としてリゾチームを取り上げて検討を進めたところ,負電荷を有するリン酸基と正電荷を有するリゾチームの間には静電的相互作用により錯体が形成され,乾燥ゲル重量に対して50%以上ものリゾチームを担持することができた。さらに,このゲルからはpH,イオン強度に応じてリゾチームが徐放され,薬物徐放担体としても有効であることが明らかとなった。これら平成5年度の研究においてはリン酸基含有モノマーとNIPAMからなるゲルについて検討を行い,目標の一部が達成されたが,次にはより精密な分子構造のキャラクタリゼーション,構造制御が重要な課題として浮かび上がってくる。特に,ゲルの表面特性は従来あまり検討されずに親水性と信じられてきたが,ゲルの膨潤・収縮に伴って転移点で特異な変化を示すことを見出した。この点はゲルの膨潤・収縮を単に論ずるだけでなく,同時に表面特性もまた制御されなければならないことを意味している。平成6年度はこの点も併せて検討する予定である。
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