研究分担者 |
ΦJVIND Moest コペンハーゲン大学, 植物学教室, 教授
河地 正伸 海洋バイオテクノロジー研究所, 釜石研究所, 研究員 (80311322)
井上 勲 筑波大学, 生物科学系, 助教授 (70168433)
MOESTRUP Ojvind Professor, Department of Phycology, Botanical Institute, University of Copenhage
OJVIND Moest コペンハーゲン大学, 植物学教室, 教授
|
研究概要 |
緑色植物群に対比される黄色植物群は、葉緑素a,c含有葉緑体をもつ少なくとも6綱の藻類群を含む一大系統群である。最近は、細胞微細構造の強い類似性から、葉緑体をもたない卵菌類(菌界)やビコソエカ類(原生生物界)など、鞭毛虫の一部もこのグループに属する生物であるとする見解が受け入れられるようになり、黄色植物群は植物界、菌界およびプロチスタ界にまたがる生物群として理解されつつある。しかし、そのグループ内の系統類縁関係の詳細は全く不明である。 代表的な黄色植物として、黄金色藻綱・オクロモナス目藻がある。しかしその知見の大部は淡水産の種のものであり、海産種については知見が非常に乏しい。多くの生物の祖先が海から陸水へ進出し、進化したであろうことを考えると、海産の黄金色藻類に黄色植物の系統とその祖先型を明らかにするための鍵となる生物があると予想される。本研究は黄色植物全体の系統類縁関係を明らかにすることを目的として、その候補として可能性の高い生物の細胞形態・微細構造的解析と分子系統学的解析を行なった。以下に、得られた知見を要約する。 1.海産黄金色藻類・サルシノクリシス目および海産オクロモナス目藻、プロチスタ等の遊泳細胞の形態、細胞構造、鞭毛装置構造、摂食装置、摂食行動を解析し、形態学的比較形質とした。 2.調査した全ての種は全て基本的にR1-R4微小管性鞭毛根系をもち、これらの種の鞭毛装置が同じ要素で構成されていることを明かにした。しかし、その他の点で、サルシノクリシス目藻は、黄金色藻綱、褐藻綱、ペデイネラ類、ペラゴ藻綱の形質が共存させていた。 3.サルシノクリシス目藻遊走細胞には、褐藻綱の鞭毛装置を特徴ざけるバイパス根系微少管及び黄金色藻綱鞭毛移行部にみられる螺旋構造THが共存した。 4.サルシノクリシス目の一部の藻の遊走細胞は、(1)鞭毛移行部基底板下部に螺旋構造PH(ペディネラ類、ペラゴ藻綱の形質)をもつ,(2)細胞外皮鞘・テカ(ペラゴ藻綱の形質)をもつ,(3)2枚の隔壁基底板(ペラゴ藻鋼の形質)をもつ,等の黄色植物構成群のいくつかにまたがる形質を共存させている。 5.伝統的な分類体系に従えば、黄金色藻綱・オクロモナス目に所属させることになるSulcochrysisは、黄色植物構成群中にいくつかの群の形質: (1)PHの存在,(2)R3鞭毛根系が制御する摂食作用(オクロモナス目及び無色ビコソエカ類にみられる摂食様式),(3)ビコソエカ類に特有な微小管性X-繊維をもつ,等を示す。このため、明らかにこの藻は既知のオクロモナス目藻とは異なる。 6.これらを基に分岐学的解析を行なうと、(1)サルシノクリシス目は,褐藻綱・黄緑色藻綱及びペラゴ藻綱・ペディネラ類とそれぞれ分岐群を形成する2群に分割される,(2)Phaeomonasはどのサルシノクリシス目藻とも分岐群を形成しない,(3)Sulcochrysisはオクロモナス目とは分岐群を形成しなかった。 7.18SrDNAの塩基配列を調べ、既に解析されている10綱20種の他の黄色植物の塩基配列データを合わせた塩基配列の比較を行なった分子系統樹は,(1)Phaeomonasは黄色植物の中で初期に分岐した,(2)サルシノクリシス目Phaeosaccionは褐藻綱・黄緑色藻綱と分岐群を形成する,(3)Ankylochrysis,Chrysonephos,Sulcochrysisはペラゴ藻綱・ペディネラ類と分岐群を形成する,(4)Sulcochrysisサルシノクリシス目・ペラゴ藻綱・ペディネラ類との近縁性を示し、オクロモナス目とは分岐群を形成しなかった。 8.無色鞭毛藻CafeteriaはR3根系による摂食行動を示した。これは黄金色藻綱・オクロモナス目藻と同じ性質であるが、分子系統樹では両者は離れて位置する。これは、r3による摂食作用はビコソエカ類と黄色植物の共通祖先がもっていた原始形質と解釈される。
|