研究分担者 |
AZBUKINA Z.M ロシア生物地質研究所, 主任研究員
HIRATSUKA Y. カナダ国立北方森林研究所, 主任研究員
金子 繁 農水省森林総合研究所, 森林微生物科, 科長
小野 義隆 茨城大学, 教育学部, 助教授 (90134163)
佐藤 昭二 上武大学, 経営情報学部, 教授 (20015639)
山岡 裕一 筑波大学, 農林学系, 講師 (00220236)
柿嶌 眞 筑波大学, 農林学系, 助教授 (40015904)
HIRATSUKA Yasuyuki Northern Foresrty Center, Canada
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研究概要 |
マツ類は大変重要な森林資源であるが、このマツ類に寄生し、大きな被害をもたらすさび病菌は、マツ類の造林にとって大変大きな問題となっている。このマツ類に寄生するさび病菌に関する調査研究は、日本、韓国・カナダ、アメリカ合衆国等においては比較的古くから行われ、これらの国における生態分布に関してはしだいに明らかにされつつある。しかしながら、未だマツ類さび病菌の起源であるとされるロシア連邦や中国における調査研究が不十分なため、これらさび病菌の系統分類学的研究や、比較生態学的研究が遅れており、各国に分布するさび病菌との類縁関係が十分解明されていない。そこで本研究では、ロシア連邦シベリア地域のマツ類さび病の発生地においてその生態学調査を行うとともに、さび病菌の標本を採集し、各国に分布するさび病菌との比較検討を行なうことを目的とした。 調査は1992年〜1994年にかけてロシア極東の森林保護地域で行ったが、その主要地域と調査期間は下記のとおりである。 Sikhote-Alin Reserve,Primorsky Territory:1993年8月7日〜14日,1994年7月8日〜15日 Ussuri Reserve and Vladivostok,Primorsky Territory:1992年7月28日〜8月7日,1994年9月4日〜6日 Bolschechtsirsky Reserve,Khabarovsk Territory:1993年8月26日〜9月3日,1994年7月17日 Contact,Magadan Region:1993年8月18日〜25日,1994年7月18日〜23日 これらの調査においてハイマツPinus pumila)、チョウセンゴヨウ(Pinus koraiensis)、ヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris)にさび病の発生が認められ、多数の標本を採取した。また、マツ類さび病菌の中間寄主と考えられるスグリ類(Ribes fragrans,R.dikuscha,R.triste,R.mandshuricum,R.latifolium)、シオガマギク類(Pedicularis resupinata,P.mandshurica)およボタン類(Paeonia lactiflora)にも各地でさび病の発生が認められ多数の標本を採集した。これらの標本は二分し,ウラジ
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オストクの生物地質研究所の標本庫と筑波大学農林学系の菌類標本庫に保存した。そして、これらを用いてさび病菌の形態学的観察を行った結果、マツ類発疹さび病菌であるCronartium ribicolaとC.flaccidiumがロシア極東地域に広く分布していることが明らかとなった。各調査地での概要は以下のとおりである。 Sikhote-Alin Reserveては、チョウセンゴヨウが広く分布しているが、このチョウセンゴヨウにCronartium ribicolaによる発疹さび病の発生が認められた。また、このさび病菌の中間宿主であるRibes mandshuricumやR.latifolium上でも多数のさび病菌の標本が採集できた。このことから、この地域にはCronartium ribicolaが広く分布していることが明らかになった。また、Pedicularis resupinataやP.mandshurica上で採集されたさび病菌も、その発生状況からC.ribicolaと考えられたが、これを確認するためにはチョウセンゴヨウへの接種試験が必要である。 Ussuri ReserveおよびVladivostokでは、調査時期がマツ類さび病の発生時期より遅くなってしまったため、マツ類上ではさび病の発生を確認することができなかった。しかし、マツ類さび病菌の中間宿主であるRibes latifolium,Pedicularis resupinata,Paeonia lactiflora上で、さび病菌の標本が多数採集でき、これらの形態学的検討の結果、Cronartium ribicolacC.flaccidumが広く分布していることが明らかとなった。 Bolschechtsirsky ReserveではヨーロッパアカマツにCronartium flaccidumによる発疹さび病の発生が認められた。しかしながら、この中間宿主と考えられるボタン属植物上ではさび病の発生が確認できなかった。また、この調査ではRibes mandshuricumやPedicularis resupinata上でもさび病菌の標本を採集することができたため、チョウセンゴヨウ上にもCronartium ribicolaによる発疹さび病が発生している可能性があり、今後調査が必要である。 Magadanでの調査では各地でハイマツ上にCronartium ribicolaによる発疹さび病の発生が認められ、また、その中間宿主であるRibes fragrans,R.dikuscha,R.triste上でもさび病菌の標本が多数採集できたため、この地域では広い範囲にわたりCronartium ribicolaが分布していることが明らかになった。以上のような調査から、ロシア極東地域にはマツ類発疹さび病菌Cronartium flaccidumとC.ribicolaが広く分布し、C.flaccidumはヨーロッパアカマツとボタン類およびシオガマギク類に寄生する生活環をもち、また、C.ribicolaはチョウセンゴヨウとスグリ類およびシオガマギク類に寄生するものとハイマツとスグリ類に寄生する生活環をもつものとがあることが推察された。今後はこの生活環を接種試験による確認する必要がある。 隠す
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