研究概要 |
減数分裂は生殖細胞形成過程の重要なもの々一つであり,相同染色体の対合,相同染色体間の遺伝子組換え(交叉)とキアズマ形成,染色体の分配等が主なプロセスである。このどの一つに欠損や異常が起っても減数分裂が異常になり生殖細胞の質的量的変化を示めし,不妊となる。減数分裂に関する細胞学細胞遺伝学的データーの集積は著るしいが,分子レベルでの解析は酵母を材料として進展しているが,高等生物を材料とした研究は稀れである。減数分裂の機構を理解し,その制御を可能にすることは育種・不妊と妊性の問題を通して社会に大きな貢献を可能にすることである。我々は雄性不妊動物と云われているヤク(Bos taurus X Bos grunniens),シカ(Cerus elaphas X Cerus nippon),猿(M.fascicularis X M.assamesis)の一代雑種を用いて減数分裂を顕微下と分子生物学的方法で解析した。現在、得られている結果は以下の如くである。 1.ヤクの精巣内では厚糸期後半に沢山の減数分裂細胞が死ぬ。さらに幾つかの細胞は移幼期から中期の間で死ぬ。極めて少数ではあり,その機能は不明であるが精子が観察できた。卵巣組織片内卵母細胞の観察は極めて困難であり,定量的観察はできなかったが,卵母細胞の数に減少傾向がみられた。即ち,雌でも雄と同様に減数分裂異常が起っているが,雌では1コの卵細胞の受精で妊性となるが,雄では受精のため極めて多数の精子を必要とするのに著るしい減少が起るため不妊となっていると考えられた。雄性不妊動物の減数分裂細胞時に第一分裂前期の細胞を正常な雄(親動物である牛)の比較を試みるため,組換えに重要な働きをするRecA蛋白と,ユリの減数分裂時異的遺伝子Lim15の蛋白(大腸菌内で作らせたもの)に対する抗体(蛍光)を使って比較した処,Western法でもin situ FISH法でも大きな差は認められなかった。恐らく,"Meiotic degradation"が起る迄は雄性不妊動物も正常な減数分裂を続けているのであろう。 2.DNAポリメラーゼ活性をポリメラーゼβとαについて比較したが,細胞蛋白量当りで比較する限り差は認められなかった。減数分裂細胞以外の体細胞を比較しても雑種雄性不妊動物と正常なものとの間に酵素活性の差は認められなかった。 3.雑種雄性不妊動物精巣と正常な精巣から単離した減数分裂前期の細胞からpolyA^+RNAを得,cDNAを作成した。得られたcDNAの数は8コと11コで少ないが減数第一分裂前期特異的なもののみであり(非時異的なcDNAはdifferentialハイブリッド形成法で除去した),大まかな制限酵素による解析で,対応がみられた。恐らく,転写についても不妊動物と妊性動物の減数第一分裂前期迄のプロセスに差があるとは認められない。 3.不妊動物で"Meiotic degradation"が起る理由として,染色体の相同性,全体的なものではなく,時定遺伝子群・染色体の軸DNA・部分的な凝縮不全などの限られた領域の異常が予測された。これは実験室マウスの系統間雑種やショウジョウバエの系統でも少数制が知られていて,解析が進みかけようとしている。我々は減数分裂での細胞死が,壌死様を示めさないことからアポトーシスが時定の遺伝的組換え下で起るのでわないかと考えている。このために染色体のクロマチンとDNAを用いてその切断/断片化を測定し,PCRを用いてその位置を決める試験に入っている。 当該年度では,牧量は不充分であるが,減数分裂細胞をほぼ精製することかできた。またRecA抗体,Lim15抗体産生が完了し,利用できる状態になった。冷凍状態の組織を使っていることからデーターが本来の生体下での状況を反映しているかどうか不安が残っている。猿のF_1雄性不妊動物は予定したものが死亡し,再生産は予定されていないこと,鹿のF_1雄性不妊動物は中国に於ける管理不全のため再チェックが必要であることを染色体分析によって明らかとしたため,解析は家畜として常時存在するヤクを中心とした。今後は,1.雄特異的減数分裂異常があるのか?同じ"Meiotic degradation"であっても,その分子レベルでの機構は同じであるのか?2.ヤクとマウスの"Meiotic degradation"の分子機構の追求と雄性不妊の誘導と防止に対する分子レベルでのチャレンヂを行なう。(本年度,施立明博士が急逝された。哀悼の意を捧げたい。
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