研究概要 |
Kempにより発見された「耳から音が出てくる」という現象,すなわち耳音響放射(Otoacoustic Emissions:OAEs)は、蝸牛の外有毛細胞の能動的な動きに由来した信号と考えられ、現在有用な検査法の少ない,内耳機能を評価する手段として、臨床応用が期待されている。しかし、OAEsは必ず中耳を介して計測されるため、OAEsに及ぼす中耳の影響の大きいことが想像される。幸いにも、和田らは中耳動特性測定装置(Sweep Frequency Impedance Meter:SFI)を開発し、従来判定の困難であった耳小骨離断と固着の診断を可能にし,現在臨床応用試験を続行中である。そこで本研究では,OAEsと中耳動特性の相関を明らかにし,OAE計測装置とSFIを組み合わせ,中耳・内耳病変を同時にかつ簡便に診断できる装置の開発を試みた。 まず,以下の実験を行った。 1.モルモットおよびヒトの全てのOAEs,すなわち自発OAEs(Spontaneous OAEs:SOAEs),誘発OAEs(Evoked OAEs:EOAEs),歪OAEs(Distortion-product OAEs:DPOAEs)および周波数掃引OAEs(Stimulus F requency O AEs)を研究室に現有する数種のOAE計測装置で,またその中耳動特性をSFIで計測した。 2.正常聴力を有するヒトの鼓膜に質量を付加し,また外耳道に圧力を加えて,その時のEDAEsと中耳動特性を計測した。 3.OAEsの発生機序はまだ明確になっていないため,外有毛細胞の能動的な動きを組み込んだ蝸牛の数値モデルを構築し,理論的にOAEs発生機序の解明を試みた。 4.その結果,以下のことが明らかとなった。 1.全てのOAEs出力レベルと中耳動特性とは大なり小なり相関がある。 2.鼓膜に質量を加えてもさほどOAEsの出力レベルは低下しないが,外耳道に圧力を加えていくと,その程度に応じてOAEsの出力レベルが低下する。 3.OAEsが発生するためには,外有毛細胞が特定の部位および限られた時間非線形的に強く動かなければならない。 上述の結果を踏まえ,中耳・内耳病変同時診断装置の仕様について検討し,以下のように決定した。 鼓膜前後,すなわち外耳道側と鼓室側の圧力のアンバランスを解消するよに外耳道に圧力を加えながら,ClickまたはTone-buest Evoked OAEs(CEOAEs or TEOAEs)を計測する。 本仕様による計測装置の試作を今後行う予定を立てている。なお,製品化に関しては,OAEs計測に関する国際特許の有効期限が切れる4年後以降を考えている。
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