研究分担者 |
LANSMAN Jeff カリフォルニア大学, 医学部, 助教授
SACHS Freder ニューヨーク州立大学, 医学部, 教授
JEFFRY Lansm カリフォルニア大学, 医学部, 助教授
FREDERICK Sa ニューヨーク州立大学, 医学部, 教授
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研究概要 |
SA(伸張受容)チャネルは細胞膜に対する機械刺激によって活性化されるイオンチャネルで、あらゆる細胞に分布しておりその生理的役割が注目されている。ところが最近になって、パッチクランプによる単一チャネルの応答と細胞全体の機械刺激応答の間に矛盾する例が報告されその生理機能の解釈を巡って混乱が生じている。本計画の目的は、SAチャネルの発見者であると同時この分野の第一人者であるF.Sachs博士及び血管内皮や筋ジストロフィでのSAチャネルの研究で著名なJ.Lansman博士と共同でこの矛盾の謎を解明して、SAチャネルが細胞の生理的応答に実際に寄与していることを確立することにある。そのために各研究者が得意な分野で独自にこの課題を追求すると共に、適宜共同研究と討論を行う。具体的には、(a)機械刺激に対する細胞のマクロな応答におけるSAチャネルの関与を電気生理的・薬理学的手法で証明する(Sokabe,Sachs)、(b)SAチャネルに特異的な毒を開発して細胞応答への効果を解析する(Sachs,Sokabe)、(c)mdxマウスを用いてSAチャネルの病態モデルを開発する(Lansman,Sokabe,Sachs)、の3大目標を設定した。得られた成果は以下の通りである。 1。Sokabeらは内皮細胞全体へ定量的伸展刺激を与えると同時にSAチャネルの活動をCa測光で定量する方法を確立し、細胞のCa応答へのSAチャネルの関わりを示す証拠を提出した(Naruse & Sokabe,Am J Physiol,1993)。 2。Sachsらは内皮細胞を局所的に機械刺激したときのSAチャネルの活動をCa測光でモニターすることに成功し、この結果がSokabeらの結果と矛盾しないことを示した(Sigurdson & Sachs,Am J Physiol,1993)。 3。Sokabeらはパッチ膜に発生する膜張力と細胞全体に発生する張力を評価する実験法と計算法を開発し、SAチャネルを活性化するのに必要な張力が両者で一致することを示した(Sokabe et al.,JJP,1993)。 4。Sokabeらは周期的伸展刺激に対する内皮細胞の形態応答にSAチャネルを介するCa流入が必須であることを示した(Sokabe et al,Jpn J Angiol,1994)。 5。Sokabeらは腎上皮のcell line(A6)の低浸透圧刺激時における細胞容積調節反応にSAチャネルの活性化が重要であることを示した。 6。Sachsらは単離心筋細胞に機械刺激を与えた時の巨視的SA電流の測定に成功した(H-fu et al,The Physiol.1994)。 7。Sachsらはタランチュラ毒がアフリカツメガエルSAチャネルをブロックすること、またCHB細胞の浸透圧応答を抑制することを発見した(未発表)。 8。SokabeとSachsは共同で、タランチュラ毒が、骨格筋および心筋のSAチャネルをブロックするするという結果を得た(未発表)。 9。Sachsらはクモ毒からのSA製ネル阻害成分の部分精製に成功した(未発表)。 以上のように上記(a)に関わる課題は予想以上の成果が得られSAチャネルが細胞の機械刺激応答で重要な役割を果たしていることがほぼ確立され、当初の目的は達成されたと考える。問題になっていたミクロ(単一SAチャネル電流)とマクロ(巨視的SA電流)の矛盾は、それまでの巨視的機械刺激がSAチャネルの活性化に不十分であったことと、パッチクランプされたSAチャネルの感度がオフセット張力のために見かけ上昇傾向にあったためと思われる。また(b)の課題は現在も進行中であり、近い将来SAチャネルに特異的な毒成分が利用可能になることが期待される。(c)の課題は膜機械特性の測定が非常に難しく確定的な結果は得られなかった。今後はむしろ分子遺伝学的・遺伝子工学的技術を積極的に導入して、直接SAチャネルの分子実体を明らかにする方向で研究を展開する道を探ることが肝要であると思われる。我々はすでにその方向でのパイロット的研究を開始している。
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