研究課題/領域番号 |
05044160
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹田 美文 京都大学, 医学部, 教授 (30029772)
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研究分担者 |
PAL Amit National Institute of Cholera and Entric, 研究員
NAIR G.B. National Institute of Cholera and Entric, 上級研究員
山崎 伸二 京都大学, 医学部, 助手 (70221653)
倉園 久生 京都大学, 医学部, 助手 (90186487)
西渕 光昭 京都大学, 医学部, 助教授 (50189304)
NISHIBUCHI M. Kyoto University
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研究期間 (年度) |
1993
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研究課題ステータス |
完了 (1993年度)
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配分額 *注記 |
3,500千円 (直接経費: 3,500千円)
1993年度: 3,500千円 (直接経費: 3,500千円)
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キーワード | 腸管感染症 / 迅速診断 / ビーズELISA / PCR / コレラ / コレラ毒素 / 0139ベンガル型 |
研究概要 |
細菌感染症の迅速診断は、抗生物質の選択をはじめとする適切な治療法の確立や防疫上の行政処置を実施するために必須である。しかしながら、現状の病原細菌の分離同定は、最近24〜48時間の時間を要し、迅速診断に役立つことはほとんど不可能である。本研究では、従来の培養法に頼らない原因細菌の同定法として、(1)免疫学的方法としてのビーズELISAと(2)遺伝学的方法としてのPCR法を、腸管感染症を対象として開発した。すなわち、腸管感染症のうち、疾病の病態が毒素に起因する疾患であるコレラ、赤痢、腸炎ビブリオ感染症、腸管出血性大腸菌感染症をとりあげ、これらの疾患の原因毒素、すなわち、コレラ毒素、志賀毒素、耐熱性溶血毒、Vero毒素の免疫学的、遺伝学的検出法の開発を試みた。免疫学的方法としては、これら毒素を精製し、精製毒素でウサギを免疫して得た血清のIgGを処理し、Fab'を作製し、これにマレイミド法により西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を1:1で結合させた抗体-酵素結合物を作成した。この標品を二次抗体に用いると、対象とする毒素のELISAによる検出感度が極めて高かった。一次抗体はビーズに内着させた。作成したビーズELISA系は、それぞれの毒素に対する感度が20〜100pg/mlと極めて高いことを確認した。ビーズELISAの結果を得るまでの所要時間は3〜4時間であった。 もっとも迅速な結果を得るためには、患者材料を直接用い、培養を省くことが理想的である。そこでインドのカルカッタにある伝染病院のコレラ入院患者を対象として、ビーズELISAの実用性を調べた。まず患者の下痢便を直接判定するために種々の測定条件を検討した。その結果、下痢便を10〜100倍希釈することにより、偽陽性反応を除くことができることがわかった。しかも、この条件下で患者下痢便約200について測定を行い、従来法である培養法と比較したところ、極めて高い一致率を示した。特に培養法陰性である検体でもビーズELISAの結果が陽性である検体があり、抗生物質の投与等で菌の培養が出来ない場合でも、ビーズELISAによりコレラ毒素を検出できることがわかった。 次に遺伝学的方法として、すでに実用化されているPCR法をコレラ毒素遺伝子検出に利用することを試みた。コレラ毒素遺伝子の塩基配列は決定されているので、この塩基配列に基づきプライマーを設計した。培養したコレラ菌を用いて、合成したプライマーの特異性を確かめ、さらに感度が培養菌数個を検出できることを確かめた後、PCRを患者下痢便に直接アプライすることを試みた。カルカッタの伝染病院のコレラ入院患者の下痢便約300検体を対象にPCRを直接行い、その結果を、培養法、ELISA法と比較した。その結果、下痢便を50〜100倍希釈すると、下痢便中に存在するPCR反応阻害物質による偽陰性が除去できることがわかった。また、培養法やELISA法よりも、PCR法がさらに優れていることがわかった。すなわち、培養法、ELISA法で陰性であってもPCR法で陽性となる検体が相当数存在した。今後はPCR法を積極的に取り入れるべきことが示唆された。 1992年10月より、インド亜大陸で新しいコレラ菌0139ベンガル型による新型コレラが大流行しはじめた。この流行はマドラスで始まったが、われわれは、すでに共同実験を始めていたビーズELISA法とPCR法を利用して、マドラスにおける0139ベンガル型(新しいコレラ菌とわれわれが命名した)の流行を迅速に確定することができた。その後、インド全土およびバングラデシュに0139ベンガル型による新型コレラは半年以内で広がったが、この流行の追跡に、ビーズELISA法、PCR法ともに極めて有効な武器として利用され、現場における実用性が確認された。
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