研究課題/領域番号 |
05044162
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
篠山 重威 京都大学, 医学部, 教授 (70109007)
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研究分担者 |
FIELDS Berna ハーバード大学, 医学部, 教授
TRACY Steven ネブラスカ大学, 微生物学, 助教授
的場 芳樹 京都大学, 医学部, 助手 (70239135)
松森 昭 京都大学, 医学部, 講師 (70135573)
BERNARD N. F ハーバード大学, 医学部, 教授
STEVEN Tracy ネブラスカ大学, 微生物学, 助教授
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研究期間 (年度) |
1993 – 1994
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研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
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配分額 *注記 |
10,000千円 (直接経費: 10,000千円)
1994年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
1993年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
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キーワード | ウイルス / レオウイルス / 心筋炎 / 心筋症 / PCR法 / 分子生物学 / 心筋細胞 |
研究概要 |
【背景】 ウイルス性心筋炎における心筋細胞障害の発症機序としては、ウイルスによる直接的な心筋細胞障害とウイルス感染により惹き起こされた免疫学的な反応(細胞性、並びに液性因子)による障害の二つの樹序が考えられているが、その機序解明に関する分子生物学的方法を用いた研究は稀である。今回我々は、レオウイルスを用いてウイルスによる心筋細胞障害の分子生物学的機序、並びに液性因子の関与の可能性につき研究を行った。レオウイルスは、その変異株8Bがマウスへ感染すると心筋炎がみられること、遺伝子の組み替えが容易に行えること、その遺伝子産物の機能解析が進んでいることより今回の研究のモデルウイルスとしてふさわしいと考えられた。 【実験1】 胎、及び新生児NIH-Swissマウスより培養心筋細胞を作成し、心筋細胞内でのウイルス増殖能をプラークアッセイ法で調べたところ、1型レオウイルスは3型レオウイルスに比べて約100倍の増殖能を示した。レオウイルスのウイルスゲノムは10本の二重鎖RNAにより形成されているが、1型と3型のレオウイルスを交配することにより作成した遺伝子組み替えウイルスを用いた検討では、ウイルス内部に存在する蛋白をコードするM1遺伝子が心筋細胞内でのウイルス増殖能を規定していることが判明した。このM1遺伝子産物(μ2蛋白)の機能に関してはあまり解明されていないが、M1遺伝子の突然変異によりレオウイルスが心筋炎惹起性ウイルスに変異することが報告されている。 【実験2】 牛大動脈由来の血管内皮細胞を用いて、実験1と同様にウイルス増殖を調べたところ、1型レオウイルスが3型に比し内皮細胞内でも増殖能を示し、遺伝子組み替えウイルスによる検討ではM1遺伝子がその増殖能と関連していた。また、マウス培養心筋細胞と比べて、牛大動脈血管内皮細胞は継代培養により多量の細胞収集が可能であり、ウイルスの細胞内動態の解析が可能である。^<35>S-メチオニンで標識した1型、3型レオウイルスでは血管内皮細胞への結合能、細胞内酵素による脱蛋白過程に差はみられなかった。ウイルス感染後6、24時間後のmRNAは1型レオウイルスで増加しており、M1遺伝子産物は転写レベルで内皮細胞内でのウイルス増殖を調節していると考えられた。M1遺伝子産物であるμ2蛋白はウイルス内核部に存在することから考えても、細胞への感染の早期過程(結合能等)に関与しないことは妥当と思われる。また、同じ遺伝子が心筋細胞と血管内皮細胞内でのウイルス増殖能を規定していることより、ウイルス性心筋炎の際にウイルスによる心筋細胞障害と共に、同時に感染した内皮細胞でサイトカイン等の液性因子の産生が亢進し、心筋細胞障害に関与している可能性が示唆され、ウイルス性心筋炎の病態を考える上で非常に興味深い。 【実験3】 心筋炎、拡張型心筋症患者27例より得られた生検、剖検心筋標本を用いてPCR法によりレオウイルスゲノムの検出を試みたが、レオウイルスは検出されなかった。 【考案・結語】 心筋細胞内でのウイルス増殖能を規定する遺伝子(M1遺伝子)が突然変異することにより、心筋細胞障害能が加わり心筋炎惹起性ウイルスとなることが判明した。また、同じ遺伝子が心筋細胞と血管内皮細胞内でのウイルス増殖能を規定していることより、ウイルス性心筋炎の際にウイルスによる心筋細胞障害と共に、同時に感染した内皮細胞でサイトカイン等の液性因子の産生が亢進し、心筋細胞障害に関与している可能性が示唆された。レオウイルスはウイルス性心筋炎における心筋細胞障害の発症機序を分子生物学的に研究するのに有用であるが、その臨床的な意義については今後の検討を要する。
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