研究課題/領域番号 |
05044170
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金田 安史 大阪大学, 細胞生体工学センター, 助教授 (10177537)
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研究分担者 |
DZAU Victor スタンフォード大学, 医学部, 教授
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研究期間 (年度) |
1993 – 1994
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研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
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配分額 *注記 |
8,500千円 (直接経費: 8,500千円)
1994年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1993年度: 5,500千円 (直接経費: 5,500千円)
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キーワード | HVJ-リポソーム / アンチセンスオリゴヌクレオチド / E2F抑制 / NO合成酵素 / 内膜新生抑制 / 血管再狭窄 / 遺伝子導入 / 遺伝子治療 / 循環器疾患 |
研究概要 |
本研究では、将来の遺伝子治療に備え、既に許可されつつある米国との共同研究組織をつくり、動物実験による基礎的データーの集積と臨床応用の可能性の検討を目的とした。研究組織のうち、金田が主としてベクターの開発、改良と様々な臓器への遺伝子導入の可能性について検討し、Dzauが血管壁細胞への遺伝子導入による血管再狭窄の予防と治療に焦点を絞り研究を進めた。 (1)ベクターの開発と改良:ウイルスベクターと非ウイルスベクターの性質を併せ持つHVJ-リポソーム法を開発してきた。これはDNAを封入したリポソームと細胞融合能をもつHVJを融合させてつくった融合ベジクルで、融合によりDNAを直接細胞質へ導入できる。また、DNAに結合する核蛋白HMG-1との併用によりDNAの発現を増強させることに成功した。しかし、このベクターは、紫外線で不活化したHVJ全粒子を用いているため将来の臨床応用に際し、安全面で障害になる恐れがある。そこで、HVJの融合に関する2つの糖蛋白FとHNをイオン交換クロマトグラフィーにより精製し、これをリポソームに埋め込み、DNAを封入したリポソームと融合させ、新たな融合ベジクルを作成した。 (2)作成したベクターの応用:HVJ-リポソームによる遺伝子導入がどの様な臓器に適しているのかを、in vivoで、E.coli Lac Z或いはSV40 large T抗原遺伝子の発現により調べた。血管壁、肺、関節腔においては、ほとんどすべての細胞に遺伝子の発現が2〜4週間にわたってみられた。腎動脈よりHVJ-リポソームを導入すると、20-50%の腎糸球体に1〜2週間の遺伝子発現があったが、投与法により、個体間に発現の差が認められた。しかし、他の既存のベクターでは腎糸球体への遺伝子導入は成功しておらず、HVJ-リポソームが有用であると判断した。肝臓へは、門脈より投与した場合、約10%の細胞に遺伝子の発現が約1週間認められ、その半数が恐らく肝実質細胞と判断された。しかし、肝臓のように大きなターゲットには適していないと考えられる。すべての臓器において著明な病理変化は認めなかった。また、抗原性については、投与1〜2週間後に、HVJに対する抗体が動物血中に認められたが、これによる遺伝子導入の阻害はみられなかった。一方、Dzau教授との共同研究によりHVJ-リポソームがアンチセンスオリゴヌクレオ
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チドの投与に極めて効率がよいことが見出された。FITCラベルのオリゴヌクレオチド(ODN)をHVJ-リポソームで血管平滑筋細胞(VSMC)に投与すると約5分で核に蛍光が集中し、培養中では3日間、組織中では約2週間安定であった。また、b-FGFに対するアンチセンスODNをVSMCに投与すると、その増殖阻害効果は直接法の約100倍、リポフェクチンの約50倍であった。 (3)血管再狭窄の遺伝子治療 血管狭窄を外科的に除去した後の再狭窄は難治で、これが心筋梗塞の治療の障壁となっている。Dzau教授のグループは、遺伝子レベルでの血管再狭窄の治療をHVJ-リポソームを用いて行なった。再狭窄は血管平滑筋細胞の異常増殖によっておこると考えられるので、まずアンチセンスODNの導入により細胞周期を止め増殖を抑制することを試みた。そのターゲット遺伝子としてPCNAとcdc2キナーゼの2つを同時にアンチセンスODNで抑制するとバルーン障害後の内膜新生を2週間にわたって完全に抑制し、その障害効果は、8週間まで続いた。細胞周期調節因子のアンチセンスODNは、この他に、cyclinBとcdc2キナーゼ、或いはcdc2キナーゼとcdk2キナーゼの組合わせが同様の阻害効果を示した。次に、2重鎖オリゴヌクレオチドを用いて、これら、細胞周期調節因子の転写を抑制するアプローチを行なった。PCNAとcdc2キナーゼは共通のE2Fという因子によって転写が活性化されるが、E2Fは、休止期の細胞では蛋白複合体をつくり転写活性はない。細胞周期が進むと蛋白複合体より遊離し、PCNA、cdc2キナーゼ、C-myb、N-mycなどの上流の配列(TTTCGCGC)に結合し、下流の遺伝子の活性化を促す。そこで、このTTTCGCGCを含む2重鎖オリゴヌクレオチド20merを合成し、HVJ-リポソームで細胞に導入し遊離E2Fをトラップし細胞増殖の抑制を試みた。3μMの2重鎖オリゴの導入により血清刺激によるVSMCの増殖はin vitroで完全に抑制され、次にバルーン障害後の内膜新生も、1回の投与で8週間にわたって70%以上の抑制が認められた。3番目のアプローチとしてプラスミドDNAを用いた。今回は、一酸化窒素(NO)を合成する酵素(NOS)のcDNAを導入した。血管内皮から分泌されるNOは、その直下のVSMCの増殖を抑制している。内皮が障害されて除去されるとNOの合成量が減少し、VSMCは異常増殖をきたす。バルーン障害後の血管壁にHVJ-リポソームでNOScDNAを導入するとNOの分泌量は正常レベルに回復し、約1ケ月にわたって内膜新生が完全に抑制された。内膜新生は新しい内皮が修復されると停止するので、その間いかにVSMCの増殖を抑制するかが重要と考えられ、その点において、以上の3つのアプローチは血管再狭窄の遺伝子レベルでの治療に大きなブレークスルーをもたらしたものといえる。 以上のように、この共同研究は役割がうまく分担され、各々において大きな成果がもたらされたと考えている。 隠す
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