研究概要 |
NADPH oxidase(O_2産生酵素)のサブユニット構造を解明するために,セミリコンビナント系(遺伝子工学で得られたp47,p67,及びracと形質膜画分からなる再構成系)で本酵素を活性化し,これを架橋剤で固定化したのち,二次元電気泳動で構造を解析することを試みた。タイプの異なる数種の架橋剤を用い種々の条件を試みたが,無細胞系と違ってセミリコンビナント系では架橋剤による安定化が難しく,また強い条件で安定化させると酵素活性そのものが失活してしまった。 セミリコンビナント系での架橋剤による安定化が細胞質ゾルの場合と比べてはるかに低いことから,細胞質ゾル中に安定化に関与する蛋白が何かあるのではないかと考え,細胞質ゾル中に多量に存在するアクチンについて,本酵素の活性化との関連を検討した。その結果,酵素の活性化および活性化した酵素維持に重合アクチンが重要な役割を果たしている事を示す実験データを得た。好中球の活性化に伴いアクチンが重合することはすでに海外の2,3のグループから報告されているが,それがNADPH oxidaseの活性化/保持と関係しているかどうかはこれまで不明であり,今回の知見は極めて興味深い。またこのことは,無細胞活性化で架橋剤による安定化をおこなった際,架橋複合体が巨大分子になったという我々の以前の知見とも一致する。今後はこの点(アクチンの重合)も考慮に入れながら活性複合体の解析法を改良し,酵素の成り立ち(サブユニット間の動的相互作用も含めて)検討して行きたい。 上記のような実験にはリコンビナント蛋白が多量に要る。これまでリコンビナト蛋白は研究分担者であるLambethの研究室で調整したもの使っていたが,量的に限度があり,また輸送上のトラブルなどもあり,やはり自分の研究室で調製することが望まれた。そこで,まずサブユニットのうちracについては大腸菌を用いて大量発現する系を確立した。次いでp47とp67をバキュロウイルス/昆虫細胞系を使って大量生産することに着手した。こちらについては昆虫細胞の培養と組換えウイルスの感染の方法をLambeth研究室から習得し,若干改良をしながら我々の手で生産を始めた。現在p47についてはSf21細胞を使って,またp67についてはHi-Five細胞を使った系をほぼ確立している。今後これらのリコンビナント蛋白を研究に用いたい。 本研究のもうひとつのテーマであるNADPH oxidaseの活性誘導の機構については,本酵素がアニオン性の脂質により活性が誘導されるという従来の知見に着目し,細胞内の活性化因子としてホスファチジン酸がその有力な候補であることを膜透過性を上げた細胞を使ってつきとめた。ホスファチジン酸は細胞の活性化とともにレベルが上昇し,その濃度は酵素を活性化するのに十分な濃度であることから好中球から情報伝達において2nd messengerの役割を果していると思われる。また近年ホスファチジン酸によるG-蛋白(ras)の活性化が報告されていることから,G-蛋白であるracへの直接の作用が期待される。これらについては今後検討して行きたい。 一方本酵素の活性化を制御する細胞内分子として,生体ポリアミンに着目し検討した結果,生体ポリアミンのうちスペルミンが本酵素の活性化を強く抑制することを,細胞レベル/無細胞レベルの両方で明かにした。無細胞レベルの実験から,スペルミンの作用は酵素の基質や活性化剤に対するものではなく,細胞質ゾル中のタンパクであることを明かにした。さらにそのタンパク分子を特定するためにセミリコンビナント系(上述)を使って解析し,スペルミンが酵素サブユニット(特にp67)に作用して活性複合体の形成を妨げることを明かにした。これらの結果は,実際の細胞内でのスペルミンの抑制分子としての働きを示唆するものとして興味深く,今後さらに検討して行きたい。
|