研究概要 |
平成5年度の研究計画では,γδ-IELのキラーT(Tc)活性が高い系統マウス(high:H)とTc活性が殆ど認められない系統マウス(null:N)が存在すること,Nタイプがdominantであること,さらにこのnタイプを規定する遺伝子の一つはH-2(マウスMHC)に連座することなどの知見をさらに進展させた.これらの成果を一つの論文にまとめ発表した(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.90:8204,1993). 一方,γδ-IELやαβ-IELはTc機能を保持するが,その生体内生理的リガンドは不明である.無菌マウスには通常マウスにほぼ匹敵するγδ-IELが存在するにもかかわらず,無菌マウスのγδ-IELはTc機能を欠損することが報告された.しかしながらこれと相反する研究結果もあり,結論が得られていなかった.我々はC57BL/6(B6)マウスのγδ-IELが普段から高いTc活性を発揮する事実に着目し,B6無菌マウスを作製した.B6無菌マウスIELのTc機能を解析した結果,αβ-IELのTc活性は消失するにもかかわらず,γδ-IELのTc活性は高く保たれることを見出した.すなわち前述の課題に決着をつけるとともに,この新知見はTc γδ-IELの生理的リガンド解明に極めて重要と考えられる.αβ-IELのTcは主として腸内微生物に向けられたものであり,γδ-IELのTcは腸内細菌以外の抗原をリガンドとする可能性が大である.これらの新知見を一つの論文にまとめて発表した(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.90:8591,1993) 平成6年度は,IEL主にγδ-IELの胸腺外発達分化とバイエル板依存性を追求するために,バイエル板を含むリンパ節を欠損するalyミュータントマウスの小腸を免疫組織化学的に検索した.alyミュータントマウスではバイエル板依存性であることが確認されている粘膜固有層(lamina propria;LP)中のIgA産生B細胞が消失していた.これに反し,γδ-IELやαβ-IELはalyミュータントマウスでも充分存在することが判明した.この新知見は,IELがバイエル板非依存性に発達分化し得ることを提示するものであり,これらの成果を一つの論文にまとめて発表した(J.Immunol.153:2014,1994).次に,ヒト腸管上皮細胞がIL-7を産生すること,IELやLP-lymphocytes(LPL)細胞上にIL-7receptorが存在することを明らかにし一つの論文にまとめた)J.Clin.Invest.印刷中,1995).IL-7は骨髄や胸腺のストローマ細胞が産生分泌し,骨髄細胞や胸腺T細胞の発達分化に不可欠なサイトカインであることが分かっている.従ってこの研究成果は,γδ-IELが消化管局所で発達分化することを支持する新たな知見である. マウスIELはαβ-IEL(40-70%)とγδ-IEL(30-60%)で構成されるが,両IELの生理的機能は異なる可能性があり,我々の平成5年度成果もこれを支持するものであった.そこで遺伝子ターゲッティング手法によって作製された,αβ-IELのみを欠損する(αβ^-)マウスとγδ-IELのみを欠損する(γδ^-)マウスの小腸粘膜を検索し,正常(WT)マウスと比較検討した.その結果小腸上皮細胞のクリプトでの増殖及び繊毛先端への移動がγδ^-マウスで著明に低下することが確認された.さらにこの上皮細胞は繊毛先端へと移動中に発達分化し,種々の細胞膜酵素やMHCクラスII抗原が誘導されるわけであるが,γδ^-マウスの繊毛上皮細胞におけるMHCクラスII抗原発現は著しく減弱することが明らかとなった.この新知見はγδT細胞の生理的機能解明に向けて極めて重要であり,これらをまとめて発表することになった(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 印刷中,1995)
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