研究概要 |
近年,航空宇宙産業などにおいて,航空機エンジン,ガスタービンなどの効率向上のため,超合金マトリックスに微細粒子を分散させて高温強化を図った粒子分散強化合金(以下,ODS合金と記す)が開発されている.Ni基超耐熱合金などの高合金には,高温特性に優れたODS合金としてMA754,MA6000などがある.これらの合金は,分散強化用の酸化物としてY_2O_3を用い,これをマトリックス中に均一に分散したものである.さらに,Ni基ODS合金と比較して融点が高く,耐酸化性に優れたFe-Cr系ODS合金のMA956,MA957なども今後期待される材料の1つである. ODS合金を実用化させるためには,母材の機械的性質のバラツキを減少させること及び優れた接合継手を得るための適正な溶接,接合技術の確立が必要である.従来より,ODS合金の接合に溶融溶接法を適用することは,溶接割れをもたらし合金特性を軽減させてしまうという問題点が指摘されている.そこで,母材を溶融させない接合法として,固相拡散接合法及び摩擦圧接法などがあげられる.摩擦圧接法では,素材形状に制約は受けるものの,極めて短時間で接合が可能である.また,接合面及びその近傍にのみ摩擦熱が発生するので,高いエネルギー効率を得ることも可能である.しかも接合面の精度をさほど要求しなくても,接合時に高い寸法精度が得られるという利点があり,近年,注目されている接合法の1つである.しかしながら,ODS合金の接合に摩擦圧接を用いたという報告は極めて少なく,TDNi及びMA6000とSUS304の異材接合に適用された程度である. そこで,本研究においては,まだ詳細に報告されていないFe基ODS合金MA956の摩擦圧接を行い,まず引張試験などから適正摩擦圧接条件を選定し,この条件で接合した継手について圧接部の組織に及ぼす摩擦圧接条件の影響,機械的性質などの検討を行った.本研究で得られた結果を以下に要約する. (1) 摩擦圧接断面部は,光学顕微鏡を用いてマクロ的に観察した結果,微細な組織になっている部分(領域I),圧接時に熱影響を受けて塑性変形している部分(領域II),母材部分(領域III)の3領域に分類された. (2) 摩擦圧力を20〜100MPa,アプセット圧力を20〜250MPa,摩擦時間を2〜8sのように条件を変化させて引張試験を行った結果,継手効率が90%以上で母材破断を起こす継手の圧接条件として,摩擦圧力50MPa,アプセセット圧力50MPa,摩擦時間2s及び摩擦圧力50MPa,アプセット圧力150MPa,摩擦時間2sを適正摩擦圧接条件として選定した.2条件ともアプセット時間6s,回転数2400rpmとした. (3) 領域Iの幅は,アプセット圧力増加とともに小さくなる傾向が認められたが,領域IIの幅はほとんど変化しなかった.圧接部近傍の硬さを測定した結果,圧接条件の違いにより領域Iが領域II及びIIIと比較してやや軟化している場合と,ほぼ等しい場合との2つの傾向がみられ,領域Iの硬さは,アプセット圧力の増加とともに上昇し,アプセット圧力が約150MPa以上になるとほぼ一定値となった. (4) 超高分解能SEMによる観察では,領域I,II及びIIIとも酸化物の分散量にほとんど変化はみられず,全体的にいずれの組織も均一に分散していた.一方,TEMによる観察では,SEM観察同様に領域I,II及びIIIはいずれも酸化物は均一に分散しており,粒界に集積しているような様子は認められなかった.また,結晶粒径は領域I及びIIでは2〜4μm程度で一様に微細であった. (5) 適正摩擦圧接条件で圧接した継手について,室温及び923Kで引張試験を実施した.その結果,アプセット圧力50及び150MPaのいずれの場合の継手も,室温及び923Kの試験温度で母材破断を起こす良好な継手であることがわかった. (6) 適正摩擦圧接条件で圧接した継手について,クリープ試験を実施した.これによると,アプセット圧力50及び150MPaのいずれの場合の継手も,クリープ破断時間は母材の1/10程度であり,継手のクリープ破断強さが低いことがわかった.この時の破断位置は,領域I及びIIの境界近傍のメタルフロー境界であった.
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