研究概要 |
1.本研究では,インドネシア共和国ジャワ島内外3箇所に無人運転の雷観測設備を設置して,2年間にわたって連続観測を行い,ジャワ島およびその周辺の熱帯における雷パラメータを明らかにすることを目的としている。初年度には,オンラインの通信回線を得るのが困難で商用電源の信頼性も低い現地で連続運転が可能なシステムを完成させ,年度内にジャワ島内3箇所に観測点を設置して,雷放電による電磁波の広帯域での観測を開始した。数kHz〜0.3MHzの広帯域で観測される電磁界パルスは,放射源の雷放電の種類の情報を含んでいるため,この性質を利用して落雷による信号のみを自動識別し,記録することが可能である。複数の観測点相互間の時刻の同期は,GPSを利用して0.1μsの精度を実現し,信号の到来方位ばかりでなく,到来時間差の情報も利用した高精度の落雷位置標定を可能とした。しかしながら現地の劣悪な環境条件が原因となって,これら3局が同時に稼働している時間帯が少なく,1994年度前半の運用実績は満足のゆくものではなかった。このため,当初の計画になかった4番目の観測点を設置することを急きょ決定し,1994年度末に4局目の運用を開始した。1995年度は,常時少なくとも3局が稼働している状態で推移し,年度末を迎えている。 2.電磁波の到来方位と,多地点への電磁波到達時間差を併用した方式の電磁波放射源の位置標定精度は,まだ明らかになっていなかったため,理論的な検討を行い,その性質を明らかにして,到来方位のみ,及び到達時間差のみを利用した位置標定方式と比較した。到達時間差方式が利用できるのは,3局以上で同時に同一の放射源から出た電磁波が観測されなければならず,3〜4局からなるネットワークでは,この方式で解析できるデータの割合はそう多くはないが,位置標定精度は到来方位を利用するよりも高いとの認識があった。しかしながら,電磁波が陸上を伝搬する場合には,その波形が大地の抵抗の影響を受けて変歪するために,雷放電に伴う電磁波パルスの見かけ上の到来時刻が変化する可能性がある。大地抵抗率と電磁波パルスの波形を仮定し,到達時間差方式の落雷位置標定の精度に大地抵抗率が及ぼす影響を調べたところ,観測点で囲まれた領域の外側では,急速に位置標定精度が悪くなることが予測された。実測データを解析したところ,このシミュレーションと同様の誤差パターンが現れ,大地抵抗率の影響が実在することが確認された。これらの成果は電気学会論文誌に掲載されることが決定している。 3.ジャワ島およびその周辺海域における落雷状況の,約1年半にわたる期間のデータの解析が一応終了している。観測期間の最後の部分については,この成果概要の執筆時点でデータ回収の最中のため,2年間分のデータの解析が終わるのは少し先になる見込みである。これまでの解析で以下の点が明らかになった。 ジャワ島周辺の落雷数には1年を周期とする変化があり,例年5月から9月ごろまでの乾季には落雷が少なく,10月から4月までの雨季に多い。雨季のこの地域の雲のシステムは,衛星画像で見る限りでは,冬季の日本周辺とは異なって,陸地の影響を受けていないが,落雷数では陸上が明瞭に多く,対流雲の発生には地形の影響が大きいことがはっきりした。雷電流分布等から見ると,雷雲の性質は日本の夏季とほぼ同じであり,中緯度帯の夏と変わりはない。落雷の密度は日本よりも1桁ほど高い。また日本の夏季には海上への落雷は極めて少ないが,インドネシア海域では,それよりもはるかに多いのも特徴の一つである。落雷数には日変化があり,陸上と海上で異なったパターンとなる。以上のようなインドネシア海域における熱帯雷の性質は,極軌道衛星などによるスポット的なこれまでの雷観測では知ることができず,地上の観測システムによる連続観測によって,今回初めて明らかになったものである。これらの新たに得られた知見は,1996年6月の国際大気電気会議で発表する予定である。
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