研究分担者 |
蒲 卓 吉林医学院(中華人民共和国), 主任
王 書瑞 吉林医学院(中華人民共和国), 講師
徐 麗華 吉林医学院(中華人民共和国), 講師
上原 正巳 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (70026871)
越智 幸男 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (90079773)
木之下 正彦 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (60093168)
XU Li hua Lecturer, Jilin Medical College
ZHUO Pu Chief, Jilin Medical College
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研究概要 |
各種降圧薬による左室心筋肥大の退縮効果については、これまでのところ主に心エコー図を用いた研究により、カルシウム拮抗薬・アンジオテンシン変換酵素阻害薬・α_1遮断薬・中枢性交感神経遮断薬では効果があり、β遮断薬では効果は不足で、利尿剤及び直接性血管拡張薬では効果がないとされている。しかし一方で、人種により降圧薬の効果に差があることが指摘されており、降圧薬による心肥大の退縮効果を国際的に比較した研究は少ない。さらに、左室心筋重量の評価法として、近年、磁気共鳴画像(MRI)が注目されており、従来からの心電図や心エコー図による評価との対比も興味のもたれるところである。本研究は、心エコー及びMRIを用いて、各種降圧薬による心肥大退縮効果を中国と日本で比較検討しようとするものである。 高血圧症の重要な合併症である左室肥大は,突然死・心室性不整脈・心筋虚血・冠動脈性心疾患・うっ血性心不全の独立した危険因子である。しかし一方では,左室壁の肥大は慢性の圧負荷に対して壁応力を正常化して駆出特性を正常に保つ代償機序でもあるため,過度の肥大の退縮は後負荷不整合を引き起こす可能性がある。従って,降圧薬の心肥大と心血行動態に及ぼす影響を調べることは降圧療法を行う上で極めて大切なことである。今回は降圧薬としては,心肥大の発生に重要な役割を果たすアンジオテンシンIIのタイプI受容体に特異的な拮抗薬であるTCV-116を用い,心肥大と心血行動態の評価はシネMRIと心エコー図により行い,日本人と中国人での比較の第一段階として,まず日本人について検討した。 方法は,本態性高血圧患者にTCV-116の2〜8mg/日を8〜12週間経口投与し,その前後で血圧と心拍数,シネMRIと心エコー図による一回拍出量・心拍出量・左室拡張期末容積・左室収縮期末容積・左室駆出分画・全末梢血管抵抗および左室心筋重量を測定した。シネMRIでは収縮期および拡張期左室容積最大変化率,また心エコー図では左室拡張期末径・左室収縮期末径・左室内径短縮率をも測定した。 TCV-116投与前→後での変化(平均±標準偏差)を以下に示す。収縮期血圧(mmHg)185±19→161±30(n=12,p<0.005),拡張期血圧(mmHg)108±10→96±13(n=12,p<0.005),平均血圧(mmHg)134±10→117±17(n=12,p<0.005).心拍数(bpm)70±12→72±9(n=12,NS).MRIによる左室心筋重量係数(g/m^2)104±20→98±26(n=12,p<0.05),全末梢血管抵抗(dyn・sec・cm^<-5>)1888±473→1702±408(n=11,p<0.05).心エコー図による左室心筋重量係数(g/m^2)116±30→110±28(n=12,p<0.05).その他の血行動態指標には,MRIと心エコー図のいずれによっても,薬剤投与前後で有意な変化を認めなかった。 以上より,TCV-116 2〜8mg/日の8〜12週投与により,日本人の本態性高血圧患者の降圧と心肥大退縮が認められた。他の血行動態指標には明らかな変化を認めなかった。中国人において,今後同様の試験が実施され,上記の結果と比較対照されることが期待される。
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