研究概要 |
{研究、調査の経過} 本年度は昨年度までブリティッシュ・コロンビア大学歯学部(カナダ)ならびに大阪大学歯学部(大阪)で行ったロールプレイング形式の調査をさらにすすめ、両者での結果を分析し、比較を行った。平成7年7月には高田がバンク-バにおいて実地調査と検討を行い、11月にはMacNeilが大阪において分析結果の比較検討を行った。また平成8年2月には前田がバンク-バで、最終的な調査と分析を行うとともに、まとめの作業を行った。 {調査結果} 本研究においては、例題として「カナダ国籍の患者が来院した場合」を想定し,これに対してカナダ人歯科医師が,どのような過程にて,診断ならびに治療方法を立案するかの分析を試み、ついで同じ患者に対して,日本人歯科医師が担当した場合についての分析を試みた。ロールプレイングによる聞き取り調査では,調査対象として臨床経験5〜10年の歯科医師を,日本(大阪大学)とカナダ(ブリティッシュコロンビア大学,バンクーバー市)から選んだ.そこでは「1)初診時の診療室における患者と歯科医師の会話を想定する、2)用意した調査資料は,被験者から要求されない限り,インタビュアーからし出すことはない.3)インタビュアーは,日本とカナダの両国で同一人物とし,調査時の会話はすべて英語で行う。」を条件とした。分析方法としては、調査時の会話を録音し,記述したものをもとに,各被験者の診査・診断を表示するチャートを作成した.被験者の診断結果をもとに,どのような経過によって,どのような診断を導いたかについて記録を作成した. その結果カナダと日本の共通点としては、ロールプレイングに要した時間については、被験者ならびに症例により異なるが,主訴の聴取,問診,資料を用いての診査・診断,及びそれらに基づく治療計画の説明,といった過程に,両国とも1症例につき平均約20分を要した(最少13分,最大32分)。また、診査から診断に至る経過については、カナダ,日本の両国においては,国ごとの典型的な相違は見られず,個々の被験者での相違が大きくみられた.治療方針については、両国間で同様の診断より導き出される治療目標の設定や,その治療方針・手段のバリエーションについては,ほぼ一致した. 一方カナダと日本の相違点としては、治療方針の患者への説明において,両国間で相違が見られた.カナダの場合,前処置から最終補綴までの治療の詳細な説明,および治療に際しての偶発症とそれに伴った治療方針の変更など,様々な可能性についてまで説明をする傾向にあった.日本の場合,主訴に対する治療方針について,まずその必要性と治療方針を説明することに関してはカナダと同様であるが,その後の補綴処置に関しては,主訴が改善されてから最終的な決定を下すといった例も見られた. 治療費については、カナダでの場合,患者に提案した治療方針における治療費(概算の金額)を説明する,あるいは患者の側から積極的に質問するといった例が多かった.日本では,前処理(この症例においては根管治療にかかる費用)に関しては特に説明がなく,補綴時には保険診療と自費診療があるという説明に留まり,補綴の段階で詳細に説明するといった例が多かった. また最も異なったのは、いわゆる“専門医"への紹介であり、カナダの場合,自分が可能な(責任の持てる)治療の範囲を明確にし,それを越えるような場合は積極的に“専門医"への紹介を患者に勧める傾向がみられた.これに対して日本の場合,治療方針の立案段階でこのような傾向は見られなかった. {本研究結果の意義} 本調査分析を実施することで今後に以下のような展開が可能となると思われる。 (1)本研究の手法を用いることで、各国における医療の診査、診断の過程の違いを明らかにすることができる。 (2)本研究の結果をもとに,社会,文化的な要因を盛り込んだ患者対応マニュアルを製作することにより,患者と歯科医師との相互理解の円滑化を行ない,適切な医療サービスを提供するための指針が得られるものと考えられる.
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