研究概要 |
ヒト肝癌の大多数にみられる慢性肝炎,肝硬変などの慢性肝障害と肝細胞の再生が、肝発癌のどの過程で、どのような影響を与えているかを明らかにするため、全例慢性肝炎を発症し、その経過中に全例肝癌の発症をみるLECラットを用いて研究した。我々は、【.encircled1.】LECラットの肝炎が肝細胞への銅蓄積によって生じ,【.encircled2.】肝細胞に蓄積する銅が食餌に由来すること,【.encircled3.】肝炎は生後4ケ月前後に、肝細胞の銅/メタロチオネイン比が増し、銅過剰となり発症すること,【.encircled4.】低銅食(0.05mg/100g)飼育により、肝炎の発症が抑制されること,を明らかにした。一方我々は、LECラットが肝炎の発症以前から、微量のジエチルニトロサミン(DEN)に対して高い発症感受性を示すことを見出した。これらを利用し、肝炎発症前のLECラットに2mg/100g体重のDENを単回投与し、その後低銅食で肝炎を抑制した肝炎(-)群と、標準飼料(銅1mg/100g)で飼育した肝炎(+)群の、肝臓におけるGST-P陽性細胞巣の誘導を比較した。その結果、肝炎(-)群のGST-P巣の面積は肝炎(+)群より有意に小さく、肝炎が、肝発癌のプロモーション過程で、強い発癌促進因子として作用することが明らかにされた。一方GSP-P陽性巣の数には有意差が認められなかった。 次に慢性肝炎が、DENに対する感受性を高めるか否かについて検討した。肝炎発症前(2ケ月令)に比して、慢性肝炎を持つ6ケ月令のLECラットでは、1mg/100gのDEN単回投与によって約7倍の数のGST-P陽性巣が誘導され、一方それぞれの陽性巣の面積には有意差が認められないことから、慢性肝炎は、発癌物質によるイニシエーション感受性を高めることが明らかになった。高感受性の機序の一つとして、DNA損傷修復能の低下が見出された。
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