研究概要 |
F344雄ラットに3,2′-dimethy1-4-aminobipheny1.(DMAB)を発がん物質として隔週に1回10回投与し,60週間で終了する実験モデルを用いて下記の成果を得た。 1.DMAB投与後testosterone propionate(TP,40mg)をシリコンチューブに封入し,皮下に埋植する方法で10,20,30,40週間の4つの異なった期間投与したところ,前立腺背側葉の異型過形成と湿潤がん、前葉の異型過形成および精嚢の湿潤がんの発生率がTPの投与期間に依存して増加した。しかし腹葉のがんはTPに反応せずむしろその発生率は減少傾向を示した。 2.20週間のTP投与終了と同時に両側精巣摘出手術を行ったところ14例のラットのうち前立腺背側葉と精嚢から各々1例の湿潤がんの発生を認めた。これらの腫瘍は去勢後20週間経っているにもかかわらず発育しておりアンドロゲン非依存性と考えられた。 3.DMABとTPで誘発した前立腺がんのアンドロゲン受容体(AR)の状態を検討する目的でラットARに対する多クローン抗体を用いて免疫組織学的に検討した結果,腹葉がんでは90%が陽性であるのに対し,背側葉と精嚢のがんでは80%が陰性であった。(正常上皮細胞はすべて陽性)。この事から,ラット前立腺の湿潤がんの大多数はアンドロゲン非依存性であることが示唆された。 4.前立腺がんについてがん関連遺伝子の変異について検討したところ,腹葉の非湿潤がん6例中1例と背側葉の湿潤がん10例中3例にK-rasのコドン12あるいは13の点突然変異を認めた。しかしp53には変異はみられなかった。この事実から湿潤性発育の獲得にはrasやp53は関与しないことが判明した。 5.背側葉の湿潤がんをヌードマウス皮下に移植したところ,約9日の倍加時間で発育する4種の移植系を確率し得た。現在in vitroで細胞株の樹立を目指している。
|