研究概要 |
1.ラットの肺近傍リンパ節(胸腺傍リンパ節ならびに縦隔リンパ節)への薬物移行性を,平均分子量約4千〜7万のモデル高分子fluoresceijn isothiocyanate(FD)を用いて検討した結果,分子量約1万までのFDに関しては分子量の増加にともないリンパ移行量の増加することが示された。また,分子量2万以上のFDにおいては移行量に有意な差が認められず,血液-リンパ関門の閾値が分子量約1〜2万の間に存在することが示唆された。ただし,血液中への移行性はFDの分子量の増加にともない低下し,この結果当該リンパ組織への選択的移行性の指標であるリンパ節-血液濃度比は分子量依存的に増大することが明らかとなった。これらの結果は,肺癌の転移抑制を目的とする薬物療法において,抗癌剤に分子量1万以上の高分子化修飾を施すことが有効であることが示唆している。2.高分子修飾素材として分子量約1万のpolyethylene glycol(PEG)を用い,抗癌剤cisplatin(CDDP)の新規高分子化修飾体CDDP-PEGの合成に成功した。3.肺内投与後の循環血流中へのCDDP-PEGの移行はCDDPTO比較して顕著に低下し,選択的な肺近傍リンパ節への移行および蓄積が観察され,また,副作用発現部位である腎臓への蓄積も顕著に減少することが明らかとなった。4.分子量約2万の酸化dextran(OXD)を用いたadriamycin(ADR)の高分子修飾体ADR-OXDについて,肺内投与時の肺近傍リンパ節選択的な移行性を確認した。5.In vitroにおける抗腫瘍活性の評価により,CDDPの場合にはPEGによる高分子化修飾によって有意に活性が低下するのに対して,ADR-OXDではほとんど活性の低下が認められないことが明らかとなった。 以上のように,肺癌転移の抑制を目的とする化学療法において,肺近傍リンパ節をターゲットとする高分子化抗癌剤の経肺投与が有用な手段となり得ることが,本研究によりはじめて示唆された。
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