研究概要 |
我々は,基質遷移状態に着目してそのミミックをデザインするという新しく理論的な方法を用いて高血圧治療薬として有望なレニン阻害剤,エイズ治療薬として有望なHIVプロテアーゼ阻害剤の合成に成功したので,この有用な方法を,HTLV-1プロテアーゼ阻害剤のデザインに応用し,基質のtransition-state analogと酵素の相互作用の解析から阻害剤を分子設計し,それに基づいてペプチドmimicを合成することにより,メカニズムの明確な抗ATL薬の開発をめざして以下の研究を行った. 1.HTLV-1プロテアーゼの合成.HTLV-1プロテアーゼの合成は我々が開発した希釈メタンスルホン酸をalpha-アミノ保護基切断に使用する固相合成法で,現有のペプチド自動合成機により行なっている.また純度の高い酵素を得るため精製しやすいビオチン誘導体の合成も行っている. 2.基質の合成.基質として以下の各種ペプチドを合成した.p19/p24(Pro-Gln-Val-Leu-Pro-Val-Met-His),p24/p15(Thr-Lys-Val-Leu-Val-Val-Gln-Pro). 3.阻害剤の合成.基質遷移状態誘導体の概念に基づいたHTLV-1プロテアーゼ阻害剤の合成法を確立するため,同族のHTLV-1プロテアーゼ阻害剤の分子設計の方法論を確立した.すなわち,基質の切断部位の遷移状態ミミックとしてアロフェニルノルシタチンを導入した阻害剤キノスタチン-272を合成し,これが,高い酵素阻害活性と優れた抗ウイルス活性を持ち細胞毒性も低いことを示した.また光学異性体も各種合成し活性中心における立体構造の重要性も示した.この結果を基に,HTLV-1プロテアーゼに特徴的な基質の切断部位Leu-ProおよびLeu-Val(Pl-Pl′)のアミド結合をイソステリックなヒドロキシメチルカルボニル型[CHOH-CO-NH]に変換した遷移状態誘導体を合成した.
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