研究実績の概要 1 計画最終年度の研究として以下のことを実行した。 1)宗門改帳による地域人口の実態解明:懐妊書上帳の分析に引き続いて、関東地方1農村の資料の解析を実行した。年々の有配偶出生力と婚姻、モタリティーなどとの関連をマイクロレベルで解明することを目的としているが、まとまった成果をえるまでに時間を要するため、当該年度中に発表することはできなかった(一部は94年度日本人口学会大会において報告予定)。 2)近世日本を中心とする人口学的レジームの特質の抽出:既往の研究に依拠した歴史人口データベースを利用し、社会経済および環境変動との関連を検討した。今年度はモタリティーを中心にした成果の一部を論文として発表した。 3)現代的課題への貢献:成熟社会としての現代を比較文明学的、文明史のコンテキストにおいてとらえ、地球環境問題、家族、人口高齢化、少産化、生活洋式の変化などをめぐる新しい文明システムへの模索について提言した(93年度比較文明学会大会で報告、『比較文明』に論文発表、重点領域研究「文明と環境」公開シンポジウムにて報告)。 2 残された課題 1)因果関係:提示した文明システムの転換に関する図式はまだきわめてラフなものでしかない。人口学的要因以外の諸変数(経済、気候など)との関連の解明に本格的に取り組む必要がある。 2)地域差:日本列島は独立、かつ完結したひとつの文明地域としてみなしうるが、歴史的には内部で地域差の大きかったことも重要である。このことは、日本列島の文明システム成立の経緯と内外における文明伝播、人口移動などの問題とも関連する。 3)歴史人口学をテーマとするシンポジウムを開催することができなかったことは残念である。
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