研究概要 |
前年度までに,音声・画像自動分析の手法を導入して,母親の語りかけに対する乳児の四肢の動きの引き込み現象を定量化する分析手法を確立し,システム論的にモデル化して,引き込み現象の基本的メカニズムを明らかにした. 本年度は,母親(育児者)に自分の要求や状態を伝達する原始的モードである乳児の泣きに着目し,乳児の泣きによる母親とのコミュニケーションについて,引き込み現象のみならず,乳児の泣き声・表情の特徴パラメータと母親の知覚との関係,またそれらと後の育児環境並びに言語発達・発達心理の関係について広く環境との交互作用の観点から評価検討した.被験者は未熟児を含む224組の母子から縦断的に完全に記録が得られた121組の母子である.その結果,とくに生後一ヶ月の乳児の泣き声に対する母親の知覚・感情が乳児の育児環境(Caldwell HOME)並びに言語・認知発達と極めて有意な関係があることを明らかにした.しかも本手法は,泣き声の音響パラメータを使用することなく,泣き声に対する母親の知覚・感情の官能検査のみで乳児の発達を予測する手法であり,臨床上も有効である.ハイネガティブな知覚でポジティブな感情グループがハイネガティブな知覚でネガティブな感情グループよりも有意に乳児の認知発達(Bayley MDI)が高いにも拘らず,運動機能発達(PDI)では有意差はなかった.これは,乳児の運動機能は母親の知覚・感情には無関係に生物学的に発達するかもしれないが,そのような母親の応答は乳児の認知発達には不可欠であることを示唆している.
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