研究概要 |
非言語的記憶の想起における言語化や言語コードの影響を明らかにするために,本研究では,よく知らない人の顔unfamiliar faceの再認に先立ちその言語記述をおこなうことが再認成績に与える影響について2つの実験を通して検討した。 実験1では、被験者に事前に記憶テストのことを告げずにターゲットの人物を提示し(偶発学習事態),再認までに2週間の遅延をおき,また,実際の顔写真を再認刺激に用いて,再認前の言語記述が再認成績にどのように影響するかを検討した。被験者はターゲットの人物(20代の女性)を見た2週間後に再認テストを受けたが,それに先立ち,言語化群の被験者は5分間ターゲットの特徴の言語記述をおこなった。その後,全被験者はターゲットの写真1枚と,同年代の女性15名の写真各1枚ずつからなる再認刺激を用いた再認テストを受けたが,その成績は言語化群で41%,統制群で19%と言語化群で高く,また,判断の自信度も言語化群で高かった。言語化群における言語記述の量の多少と記憶成績の間には関連は見られなかった。 実験2は,実験1の結果を生み出すメカニズムを明らかにする目的で計画された。仮説として,2週間前に見た見知らぬ人の顔の非言語的記憶表象は脆弱で,妨害刺激により質が低下しやすいが,言語化の手続きがこの質の低下を防ぐ,というものを設定した。もしこの仮説が正しいなら,再認テストにおいてターゲット刺激の前に多くの妨害刺激に曝されるほど言語化の効果は大きくなると考えられる。 実験2では,再認刺激は,1名ずつの写真を16枚継時提示してから,16名分を同時提示された。このときターゲットが2番目に提示される2nd条件と15番目に提示される15th条件を設けた。再認成績は全体として実験1より高かったが,言語化による差,ターゲットの提示位置による差とも検出されなかった。言語化の効果が生じる条件の分析の必要性が示唆される。
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